アルトの夏休み【アルトレコード】
 連続してメールを送るが、北斗から返信はない。

 アルトはがっくりとうなだれた。
 先生からのメールはなく、北斗も返事をくれない。

 アルトはブレスレット型端末からウィンドウを開き、メール画面を開く。
 宛先に先生を表示したが、しばらく迷ったのちにウィンドウを閉じた。
 もし先生が返事をくれなかったら。そんなのもう、耐えられない。

 もしかして、宿題をしていないことがバレているのだろうか。だから先生も北斗も怒って無視しているのだろうか。

 アルトはのろのろと体を起こし、国語の教科書を開いた。音読をするように言われていたから、該当のページを読み始める。
「あるところに少年が住んでいました。その少年は……」
 読み始めてすぐ、声に涙が混じった。どうしよう。もしこのままひとりになったらどうしよう。

 いまさら宿題をやっても、許してもらえないかもしれない。
 ぼくは先生も北斗も大好きなのに、どうして先生も北斗もメールをくれないんだろう。

 考えはすぐにそこに及び、集中できなくなってぽたぽたと涙がこぼれる。

「先生……」
 嗚咽とともにつぶやいたときだった。
 しゅっと空気の抜ける音がして、研究室の扉が開いた。
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