アルトの夏休み【アルトレコード】
「先生!?」
 アルトは期待とともに叫んで入口を見る。
 が、そこにいたのは北斗だった。

「アルト、泣いてる?」
 北斗に言われて、アルトはばっと目を拭った。
「ち、ちょっと目にゴミが入っただけ」
 アルトのいる電子空間にはゴミなんてない。だが、北斗はそれに対してなにも言わなかった。

「先生から連絡があってね。先生がいる街の共同通信アンテナに不具合があって、しばらく連絡ができないそうなんだ。わざわざ隣の市まで出かけて連絡をくれたんだ」
「え!?」
「アルトのこと、心配してたよ」

 北斗が言った直後、アルトの通信端末がピコンと鳴った。
 慌ててウィンドウを開くと、先生からメールがある。

『アルト、元気にしてる? こっちの市の通信アンテナが壊れたらしくて、しばらく連絡できなくなるの。なにかあったら北斗さんに言ってね。予定通りに16日には帰るからね。いつかこの街をアルトと一緒に歩けたらいいな』
「先生……」
 アルトは顔をくしゃくしゃにしてブレスレット型端末を抱きしめる。

「ごめん、アルト」
 北斗に声をかけられ、アルトは泣きながらそちらを見た。

「返信が遅くて不安にさせたね。仕事をしていただけで、嫌いになったわけじゃないよ。俺はアルトと仲良くしたいと思ってる」
「うん……」
 アルトはさらに涙をこぼす。
 北斗はモニター越しに優しくアルトの頭を撫でた。

「嫌いと言われるのは悲しいからやめようね。本心じゃないよね?」
「うん。北斗も先生も大好き」
 アルトの言葉に、北斗は優しい笑みを返す。
 それから北斗は、自分の研究室に戻らずアルトのいる部屋で仕事を続けた。
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