転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って!
 2人の言い争いを耳にして、我に返ったのだろう。
 呆然失意のまま固まっていた父親が、不躾な態度を続ける息子の口を塞いだ。

「うちの愚息が、大変ご迷惑を……」
「いえ、構いませんよ。こう言うのも、悪くないと思うので」
「殿下……」
「恐れていた事件が起きてしまった以上、このままラクア男爵家で暮らすのは、よくないと思います」
「ふが……っ! ふぐぐ……!」

 口元を押さえつけられているユイガは、くぐもった声を出してマイセルの提案に異を唱えた。

『この混乱に乗じて、姉さんを手籠めにするつもりか! 絶対に許さないからな!』

 弟がそんなふうに叫ぶ姿を想像したユキリは、彼の口から本題が紡がれる前に声を発した。

「それってほとぼりが覚めるまでは、王城で暮らした方がいいんじゃないかって話でしょ?」
「そうだね」
「だったら、ユイガと一緒がいい」
「ぷは……っ。姉さん……!」
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