転生モブ令嬢は、死ぬ予定でした 王太子から溺愛されるなんて、誰か嘘だと言って！

「くそ……。なんで俺が、こんな奴に……」

　彼の去りゆく姿をじっと見つめていた弟に、ある異変が起きる。
　拳を握りしめ、声を震わせたのだ。

(どうしたんだろう……？)

　ユキリが不安そうにユイガを見遣れば、頭の上から馬車の外に向けて指示が飛ぶ。

「ラクア男爵の馬車に、護衛をつけて」
「はっ。承知いたしました！」

　威勢のいい返事をした男性はドタバタと音を立てて遠ざかっていく。
　その光景を目にした弟は、信じられないものを見るように瞳を見開いた。

「ラクア男爵は、いずれ義父になる方だからね。見殺しにはしないよ」
「恩を売ったつもりか!?」
「何もしないよりはマシだろう？」
「ぐ……っ。姉さんと結婚できると思ったら、大違いだからな……！」

　顔を真っ赤にしてそっぽを向くあたり、ユイガも殿下に対して心を許し始めているのかもしれない。

(言い争いは止めてもらえると、助かるんだけどなぁ……）

　口を挟んで、関係を悪化させるわけにもいかず――ユキリは苦笑いを浮かべると、2人の仲を見守る体制に入った。