25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

エピローグ

美和子、明日——役所に行こう。婚姻届、出しに」

「……ほんとうに、私でいいの?」

そのとき、真樹は静かに立ち上がり、書斎から小さなベルベットの箱を持ってきた。
重みを込めてテーブルに置かれた箱の蓋が、音もなく開かれる。

中には、柔らかな光を湛える指輪が、そっと収まっていた。

「美和子。俺と、結婚してくれ」

彼は何も言わず、美和子の左手を取り、その薬指に指輪をはめた。

驚いたように瞬きをして、彼女はその輝きをじっと見つめる。

「……これって、あのときの……?」

「そう。あのとき君が、いちばんうれしそうな顔で長く眺めてたやつ。
すぐに注文して、少しだけカスタマイズしてもらった」

「……ちょっと引くわ、そういうところ……でも、ありがとう。
すごく綺麗……うれしい」

「返事は?」

美和子は姿勢を正し、まっすぐに彼を見つめた。
その瞳には揺るぎない光が宿っている。

「不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

その瞬間、ふたりの頬に、静かで深い幸福の花が咲いた。
寄り添うだけで、世界があたたかく満ちてゆく——そんな奇跡のような夜だった。

何もかもが遠回りだったけれど、たどり着いたこの場所が、ふたりにとっての「はじまり」だった。

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