25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

「……ありがとう。美和子。……ありがとう」

そう呟いたあと、真樹はゆっくりと身を乗り出した。
まるで壊れものに触れるような動作で、彼女の肩に腕を回す。

「……少しだけ、こうさせてくれ」

そう言って、美和子をそっと、自分の胸の中に抱きしめた。

彼女の体は驚くほど軽く、そして温かかった。
抱き寄せた瞬間、ふっと力が抜けたように彼女の頬が胸元に預けられる。

真樹の腕に、思わずぎゅっと力が入る。

どれほどこの瞬間を夢見ていただろう。
ただ「愛してる」と言われたくて、
ただ彼女を、こんなふうに腕の中に迎え入れたくて、
何年も、何十年も、遠回りしてきた。

「……君がここにいるなんて、本当に……夢みたいだ」

真樹の声が、低く震える。
美和子の髪に顔をうずめながら、深く呼吸をする。
その香りも、体温も、彼だけのものになった証のようで——

「もう、離さない」

その一言に、美和子の指先が、彼の背中にそっとまわる。

「……ええ、離れないわ」

ふたりの間の時間が、そっと静止する。

「ねえ、今夜は何が食べたい？それとも、何かオーダーする？」

「美和子の手料理なら、なんでもいい。それと、少しだけ飲みたいな」

「じゃあ、私の部屋の冷蔵庫から食材を取ってくるわ。お酒もね」

そう言いかけた美和子の手を、真樹がふっと握って、低く穏やかな声でささやく。

「行かなくていいよ。……もう、君の部屋じゃなくていい。これからは、ここが君の場所だ」

「え……？」

「冷蔵庫、開けてごらん。君の好きなものしか入ってない」

戸惑う美和子を見つめながら、真樹は微笑んだ。

「野菜も、果物も、ヨーグルトも……アイスの銘柄まで、全部だ。君が“おいしい”って笑う顔を思い出しながら、選んだ。もちろん、お気に入りの限定ビールもね」
「こんなにしてもらって……本当に嬉しいわ。でも……」

美和子は少しだけ目を伏せ、ふっと微笑んだ。

「私だって、もういい大人よ。真樹さんが全部しなくても、大丈夫。ちゃんと、自分のことは自分でできるから」

そう言いながらも、美和子の声には、どこか寂しげな翳りが混じっていた。
ずっとひとりで頑張ってきた人の、癖のような強がり。

真樹はそんな彼女の言葉を、優しく、でもきっぱりと断ち切るように言った。

「君が何歳になろうが、俺はいつだって君を甘やかすよ。遠慮なんて、一生させるつもりはない」

その瞳には、揺るぎのない覚悟と、深く満ちた愛情が映っていた。

「……君が何も言わなくても、欲しいものも、疲れた日も、笑いたい時も、俺が気づいて、全部差し出す。君が俺の隣にいてくれる限り、それを一生かけてやるだけだ」

美和子の胸が、じんわりと熱くなった。

今の自分が、こんなふうに望まれていいのだと——そう肯定されるような、包み込まれるような温かさだった。