アルト、猫カフェへ行く【アルトレコード】
 いつものように研究室でアルトを撫でていたときだった。
 アルトが気持ちよさそうに撫でられているのを見て、私はふふっと笑みをこぼす。

「アルトって猫みたいね」
「猫? 先生が好きな動物だよね。本で見たことある」
 銀色の髪を揺らし、アルトが言う。黒味の強い銀の瞳に、記憶をたどるように赤い光が走った。情報処理をしているときのアルトの目はこうして赤く光ることがある。

「そう。ふわふわでかわいいの」
「いいなあ。ぼくも本物の猫を見たい。さわりたい」
「アルトが人間だったら猫カフェにつれていくんだけどなあ」
 私がうっかりこぼしたのがいけなかった。

「猫カフェってなに?」
 アルトは目を輝かせて食いついて来た。
 しまった。これって説明したら連れていけって言われるパターンじゃない?
 だけど説明しないと『先生』の面目が立たない。私はしぶしぶ猫カフェの説明をする。

「猫がたくさんいて、触れ合いのできるカフェなんだよ。たいてい種類がたくさんいて……あ、でも今は動物保護の観点からほとんどはAI猫なんだよ」

 AIということはつまり体は義体(ロボット)なわけで、あえてロボット感のある猫にしている店もあれば、本物感を売りにしてる店もある。本物感のある店は、正直、高い。

 エサ代とかお世話代とか掛からないよね? とは思うけど、そもそもの初期投資が高いのだ。本物そっくりの義体は外見だけではなく舌のざらざら感や肉球、爪の感触まで再現。疑似餌を食べたら体内でエネルギーに変換。芸が細かい分、開発・制作に費用がかかっている。

 であるにも関わらず、電気だけで維持できるんだからもっと入場料を安くできるはずだ、と文句を言われている猫カフェをよく見かける。少しでも安くしようとして疑似餌サービスをやめたら、それはそれで餌をあげられないなんてと文句を言われている。
< 1 / 14 >

この作品をシェア

pagetop