白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。
そんなことを考えているうちに、紫陽たちは目的地の厨房に到着した。中では、三人の女性たちが忙しそうにせっせと動き回っている。
「姐さーん! お腹すいたから何か分けて」
「あらあら杏ったらまーた来たの? まったく食い意地張ってるんだから」
「しょうがないわねぇ。ちょうど美味しい卵焼きができたところだから食べてごらんなさい」
慣れた様子で厨房の中へ入っていく杏を女性たちは微笑ましそうに受け入れる。
それを見ながらためらって入口に突っ立っている紫陽に、やがて女性の一人が気付いた。驚いたように目を見開く。
「あらあら、まあまあ」
しかしそんな彼女の何倍も、紫陽は驚くことになる。
「もしかして、噂の奥方様では?」
女性は一歩も動いていない。なのに、いつの間にか彼女の顔が紫陽の目の前にあった。
(首が……)
纏う霊力は確かに妖のそれだったが、見た目はどう見ても人間だった。だがその首は今、にょきにょきと長く伸びている。
「ええ、本当? わたしにも見せて!」
「ずるい、わたしが先!」
他の女性たちも同様に文字通り首を伸ばして、順々に紫陽の顔を覗き込んでくる。
首が絡まったりしないのだろうか……と、紫陽は目の前の光景を理解するのを諦めたように考える。