家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
自分の結婚式には、自分で刺繍したウェディングドレスを着たい。

そう、ずっと夢見ていた。

ドレスの仕立ては三日ほど。

けれど刺繍には、何倍もの時間をかけた。

夜を徹し、指先に絆創膏を貼りながら、ひと針ひと針に想いを込めた。

まさか本当に間に合うとは思わなかった。

結婚そのものは、私の思い描いたものとは違った。

相手も、きっかけも、すべてが。

けれど、このドレスだけは、私の自由だった。

私が選び、私の手で仕上げたもの。

「よかった……」

出来上がった刺繍を見て、心からそう思った。

たとえ政略結婚でも、これは確かに、私の意思だった。

「大丈夫よ。だって、これを着て結婚式を挙げるのだもの。」

私は自分に言い聞かせた。
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