家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
「今回は、見合わせようと思うの。」

私は静かにペンを取り、便箋に丁寧な筆致で断りの言葉を綴った。

エミリア。

長く親しくしてきた友人であり、公爵家に嫁いだ今でも私を気にかけてくれる、数少ない心許せる存在――。

だが、彼女からの舞踏会の招待状には、どうしても首を縦に振ることができなかった。

数日後、予想もしなかった訪問者が玄関に現れた。

「クラリス、もしかして……お目出た?」

にこやかに微笑むエミリア。

その声音には、悪意も揶揄も一切なかった。

「違うの。ごめんなさい、突然のお断りで。」

私は彼女を応接室へと案内した。

湯気の立つ紅茶を前に、しばし無言の時間が流れた。

やがて私は、心に溜め込んでいた不安を打ち明ける。
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