アルト、猫になる【アルトレコード】
「せんせえ~」
 扉が開くと同時に甘えた声がして、私はディスプレイから顔をあげた。

 いつもの研究室、入って来たのは黄色のメッシュに三つ編みがかわいいアルトだ。
 事件が落ち着いたあと、四人のアルトは個室を用意してもらい、研究所に住んでいる。

 今は北斗さんの出張に三人のアルトがついていっており、残っているアルトはひとりだけだった。

 このアルトは人懐っこくて人気があるが、今はどうしてだか元気がない。銀色の髪すらもシュンと垂れているように見えるし、レモン色のぱっちりした目が悲し気に垂れている。

「どうしたの?」
「義体、壊れちゃったみたい」
 彼が両手を差し出すと、手首から先がぶらーんとしていた。

「なにやっても動かないの。なにもしてないのにぃ」
 泣きそうなアルトに、なにをやらかしたんだろう、と思う。

「触るよ。痛くない?」
「うん。痛覚はオフにしてあるから」

 めそめそするアルトの手を触ってみる。完全に折れているようで、なにをしてもまったくダメだった。
 ぴこぴこっと音が鳴り、着信が告げられた。

「ちょっと待ってね」
 私はディスプレイに向き直り、応答を押す。

『あ、ちょっといい? 秤だけど』
 画面に現れたのは秤さんだった。
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