アルト、猫になる【アルトレコード】
『さっきアルトくんが荷物を持ってくれたんだけど、重すぎたみたいで手がおかしな方向に曲がっちゃって』

「秤さーん、なんで言っちゃうの!?」
『あ、アルトくん、そこにいるの? 急にいなくなるから心配したよ!』

 私は悟った。アルトはお手伝いをしようとして手が折れて、だけど気を遣わせたくないから強引に帰ってきたのだろう。

「連絡ありがとうございます。アルト、手が折れちゃったみたいです」
『大丈夫なの!?』

「たぶんメーカー修理が必要です」
『その間、かわりの義体ってあるの? どれくらいかかるの?』

「うーん……確か、いったんメーカーに送って、見積もり取ってからだと思うので、時間がかかると思います。代替機はなかったような気がします」
「そんなあ」
 横で聞いていたアルトがしょげて座り込む。

『あらら……かわいそうに』
 秤さんにもその様子が見えたようで、彼女は同情の声を上げる。

「せっかく北斗が用意してくれた義体なのに……。怒られる……。大事にしようと思ってたのに……」
「あんまり落ち込まないで。誰だってミスはあるんだから」

「うん……」
 慰めてはみるものの、あまり響いてないようだ。

『だったらアルトくん、しばらく猫の義体に入ってみない?』
「猫の?」
 秤さんの言葉に、アルトが目をまん丸くする。

『なあんてね、冗談冗談』
 ははっと笑う秤さんだが、アルトはすくっと立ち上がって身を乗り出した。レモン色の人工眼球が、きらーん! と光る。
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