【不器用な君はヤンキーでした】
📘第5話《心拍数の距離》前編
翌朝。
目覚ましの音が鳴るより少し早く目が覚めた。
昨日のことが、夢みたいにふわふわと頭の中で繰り返されてる。
(瀬那くんの“秘密”、知れた気がする)
(そして私の“秘密”も、彼に渡してしまったような……)
カフェオレの缶。
指先がふれた感触。
「触りたくなる」って、あの声と距離。
顔が熱くなる。
まだ、キスなんてしてないのに。
それでも胸の奥が、じんわり火照ったままだ。
制服に袖を通しながら、そっと呟いた。
「会いたい……」
誰にも聞こえないような、私の心の声。
*
教室に入ると、ちょうど瀬那くんがドアの前にいた。
その存在感はやっぱり圧倒的で、けど、私はもう目を逸らさない。
「おはよう」
小さく声をかけた。
すると彼は――。
「おう、叶愛」
一瞬の間もなく、名前で呼んできた。
それだけで、昨日の“秘密”が、本物だったってわかった。
「……今日も、カフェオレ?」
「いや、今日のはブラック。寝起き悪かった」
「そっか」
会話は短くても、昨日よりずっと近い。
でも、それを見ていた周囲の視線は――少し、ざわついてた。
「あれ、今名前呼んだよね?」
「うそ、瀬那が女の子と喋ってる……」
「てか、叶愛ちゃんってあの……かわいい子だよね?」
誰かの小さな声が、確かに聞こえた。
でも、瀬那くんは一切気にしてない。
「気にすんな」
「……え?」
「見てくるやつらの視線。気にすんな。俺が隣にいる時くらい、安心してろ」
その言葉に、胸がぎゅっとなる。
(こんなの……ずるい)
不良なのに、怖いはずなのに。
彼がそばにいるだけで、こんなにも心が落ち着く。
「瀬那くん、ってさ」
思わず聞いてしまった。
「人に甘えるの、得意じゃないでしょ?」
「……なんだよ、いきなり」
「昨日、思ったの。いつも誰かに見張られてるみたいに、気を張ってる。……ちょっと、かわいそうって思っちゃった」
言った瞬間、後悔した。
“かわいそう”なんて、きっと瀬那くんが一番嫌う言葉だってわかってたのに。
けど――
「……バレてんな、ほんと」
瀬那くんは、笑った。
それは誰にも見せない、柔らかい笑顔だった。
「バレんの、叶愛だけだよ。……だから、お前といると油断すんのかもな」
その言葉で、距離がまたひとつ、縮まった気がした。
(これ以上、好きになったら……)
怖い。でも、止められない。
彼と過ごす日常は、少しずつ、私の中の“恋”を確実に育てていった。
目覚ましの音が鳴るより少し早く目が覚めた。
昨日のことが、夢みたいにふわふわと頭の中で繰り返されてる。
(瀬那くんの“秘密”、知れた気がする)
(そして私の“秘密”も、彼に渡してしまったような……)
カフェオレの缶。
指先がふれた感触。
「触りたくなる」って、あの声と距離。
顔が熱くなる。
まだ、キスなんてしてないのに。
それでも胸の奥が、じんわり火照ったままだ。
制服に袖を通しながら、そっと呟いた。
「会いたい……」
誰にも聞こえないような、私の心の声。
*
教室に入ると、ちょうど瀬那くんがドアの前にいた。
その存在感はやっぱり圧倒的で、けど、私はもう目を逸らさない。
「おはよう」
小さく声をかけた。
すると彼は――。
「おう、叶愛」
一瞬の間もなく、名前で呼んできた。
それだけで、昨日の“秘密”が、本物だったってわかった。
「……今日も、カフェオレ?」
「いや、今日のはブラック。寝起き悪かった」
「そっか」
会話は短くても、昨日よりずっと近い。
でも、それを見ていた周囲の視線は――少し、ざわついてた。
「あれ、今名前呼んだよね?」
「うそ、瀬那が女の子と喋ってる……」
「てか、叶愛ちゃんってあの……かわいい子だよね?」
誰かの小さな声が、確かに聞こえた。
でも、瀬那くんは一切気にしてない。
「気にすんな」
「……え?」
「見てくるやつらの視線。気にすんな。俺が隣にいる時くらい、安心してろ」
その言葉に、胸がぎゅっとなる。
(こんなの……ずるい)
不良なのに、怖いはずなのに。
彼がそばにいるだけで、こんなにも心が落ち着く。
「瀬那くん、ってさ」
思わず聞いてしまった。
「人に甘えるの、得意じゃないでしょ?」
「……なんだよ、いきなり」
「昨日、思ったの。いつも誰かに見張られてるみたいに、気を張ってる。……ちょっと、かわいそうって思っちゃった」
言った瞬間、後悔した。
“かわいそう”なんて、きっと瀬那くんが一番嫌う言葉だってわかってたのに。
けど――
「……バレてんな、ほんと」
瀬那くんは、笑った。
それは誰にも見せない、柔らかい笑顔だった。
「バレんの、叶愛だけだよ。……だから、お前といると油断すんのかもな」
その言葉で、距離がまたひとつ、縮まった気がした。
(これ以上、好きになったら……)
怖い。でも、止められない。
彼と過ごす日常は、少しずつ、私の中の“恋”を確実に育てていった。