【不器用な君はヤンキーでした】

📘第6話《放課後と、ブラックコーヒー》前編

「叶愛、そっち行くぞ」

「……えっ?どこ?」

「黙ってついてこいって」

下校時刻を少し過ぎた放課後。
誰もいない裏門側の通用口――校舎の中でもあまり人が寄りつかないその場所に、私は連れていかれた。

手には、瀬那くんが自販機で買ってくれたブラックコーヒー。

「はい」

「え、ブラック?」

「甘いの似合わねーと思って」

「……それって、褒めてるの?」

「どっちに取るかはお前次第」

ああ、またこれ。
瀬那くんのこの言い方、ずるい。
真っ直ぐじゃないのに、ちゃんと心に届く。

「で、なんでここ?」

「……静かだし、誰も来ねーから」

そう言って、金網フェンスにもたれかかるように座り込む。
一見無造作なのに、どこか絵になるその姿。

隣に座っていい?って聞く前に、瀬那くんが軽くあごで合図した。

「座れよ」

「……うん」

フェンス越しに差し込む夕方の光が、彼の横顔を照らす。
綺麗で、儚くて、でも触れるには近すぎて。

「お前さ」

瀬那くんが、缶コーヒーをくるくると回しながら口を開く。

「“怖くない”って言ってたよな。俺のこと」

「うん」

「……俺、自分でも何考えてんのかよくわかんなくなる時あるんだよ。キレる時も、黙る時も、笑う時も。全部、ぶっ壊れてんのかって思うくらいバラバラでさ」

「……」

「でも、お前見てると、少しだけマシになんだよ」

一瞬、息が止まった。

それって――。

「……マジで、なんなんだろうな」

「……それって、“好き”ってことじゃないの?」

言ったあと、鼓動が跳ねた。

でも、止まってくれなかった。
言いたくて、言わずにはいられなかった。

瀬那くんは少しだけ目を見開いたあと、笑った。

「お前、そういうとこだけ鈍くねぇな」

「え、え、どういう意味?」

「……さぁ?」

ブラックコーヒーを一口飲む。
その口元が、やっぱりずるいくらい綺麗だった。

「俺、お前にだけは嘘つけねぇっぽいわ」

「……私も、瀬那くんには見栄張れない」

ふたりで並んで座る、静かな夕暮れ。
誰にも邪魔されない、ちょっとだけ特別な空間。

この瞬間が、もう少しだけ続けばいいって思った。

けど、次の瞬間――。

「神咲くん?」

聞き覚えのない女子の声が、遠くから聞こえてきた。

思わず、瀬那くんと同時にそちらを向いた。

フェンスの向こうに立っていたのは、スタイルのいい、美人な女の子。
落ち着いた髪色に、ブランドバッグ。
その雰囲気からして、同級生じゃない。

(誰……?)

「久しぶり。もう忘れた?」

彼女は、まっすぐ瀬那くんだけを見ていた。

私は思わず、手にしていた缶をぎゅっと握る。

瀬那くんは――その声に、何を思い出すんだろう。
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