【不器用な君はヤンキーでした】
📘 第4話《秘密と、カフェオレ》前編
朝、教室に入るとすぐに目が合った。
……神咲瀬那。
何も言わずに頷くだけ。
でも、それだけでなんだか特別な気がして。
昨日、彼が買ってきてくれたサンドイッチとカフェオレ。
あんなの、普通のクラスメイトにすることじゃないよね?
(……それに、瀬那くん、絶対わざとだったよね)
わざと髪に触れた。
わざと、近づいた。
わざと、距離を縮めてきた。
あんなの、ずるい。
――好きになりそうになる。
「おはよ、叶愛ちゃんっ♡」
「……わっ、栞菜!」
クラスメイトの親友、**橘 栞菜(たちばな かんな)**が元気よく私に抱きついてくる。
「もう〜、今朝はバス来なかったし遅刻寸前〜!叶愛ちゃん、昨日どうだった?席隣だしさ、瀬那と!」
「えっ……あ、うん。特に何も……」
「え〜?嘘でしょ。絶対なんかあった顔してる〜!」
「か、顔ってなに!」
「その赤くなるところ、ほんと分かりやすいんだからぁ♡」
栞菜はにまにまと笑いながら、瀬那の方をチラッと見た。
「でもさ、あの瀬那が、叶愛ちゃんにだけちょっと態度違うって噂、あるよ?ふふ、特別だねぇ♡」
「や、やめてってば……!」
(……特別?)
心の奥に、その言葉がぽちゃんと落ちた。
静かに波紋が広がっていく。
*
放課後。
帰り支度をしていたら、後ろから声をかけられた。
「一ノ瀬。ちょっと、来い」
「えっ、……瀬那くん?」
「いいから」
腕を引かれるまま、私は教室を出た。
誰もいない旧校舎の裏。
夕方のオレンジ色に染まった空の下で、瀬那は小さな缶を取り出して、それを私に差し出した。
「……昨日、甘いやつ飲んでたろ?これ、似てんの探した」
それは、ほんのりカフェオレの香りがする缶コーヒー。
「えっ、わざわざ……?」
「別に、帰りにコンビニ寄っただけ。ついでだし」
「……うそ。優しいくせに」
「違ぇし。……てか、前から思ってたけど」
瀬那は缶のフタを開ける音を聞きながら、ポツリと呟いた。
「お前、俺のこと……怖ぇって思ってたよな?」
「え……」
(それは、確かに最初は――)
「でも、今は……違う」
「へぇ」
彼は少しだけ口角を上げた。
それが、どこか嬉しそうで、私の胸はドクンと跳ねた。
「……あのね」
私は、缶を両手で持ちながら言った。
「私だけが知ってる、瀬那くんのこと。たぶん、いっぱいあると思う」
「……秘密、か?」
「うん。ふたりだけの、秘密だよ?」
その言葉に、瀬那が目を細めて笑った。
「……気に入った。そーいうの、嫌いじゃねぇ」
風がふわっと吹いた。
近くに落ちた桜の花びらが、ふたりの間にひらひらと舞い落ちる。
その距離、ほんの数センチ。
触れそうで、触れない距離。
でも、確実に“近づいてる”。
(ねぇ、瀬那くん)
(私はもう――)
あなたのこと、“怖い”なんて、思えないよ。
⸻
▶次回:第4話《秘密と、カフェオレ》後編へつづく
……神咲瀬那。
何も言わずに頷くだけ。
でも、それだけでなんだか特別な気がして。
昨日、彼が買ってきてくれたサンドイッチとカフェオレ。
あんなの、普通のクラスメイトにすることじゃないよね?
(……それに、瀬那くん、絶対わざとだったよね)
わざと髪に触れた。
わざと、近づいた。
わざと、距離を縮めてきた。
あんなの、ずるい。
――好きになりそうになる。
「おはよ、叶愛ちゃんっ♡」
「……わっ、栞菜!」
クラスメイトの親友、**橘 栞菜(たちばな かんな)**が元気よく私に抱きついてくる。
「もう〜、今朝はバス来なかったし遅刻寸前〜!叶愛ちゃん、昨日どうだった?席隣だしさ、瀬那と!」
「えっ……あ、うん。特に何も……」
「え〜?嘘でしょ。絶対なんかあった顔してる〜!」
「か、顔ってなに!」
「その赤くなるところ、ほんと分かりやすいんだからぁ♡」
栞菜はにまにまと笑いながら、瀬那の方をチラッと見た。
「でもさ、あの瀬那が、叶愛ちゃんにだけちょっと態度違うって噂、あるよ?ふふ、特別だねぇ♡」
「や、やめてってば……!」
(……特別?)
心の奥に、その言葉がぽちゃんと落ちた。
静かに波紋が広がっていく。
*
放課後。
帰り支度をしていたら、後ろから声をかけられた。
「一ノ瀬。ちょっと、来い」
「えっ、……瀬那くん?」
「いいから」
腕を引かれるまま、私は教室を出た。
誰もいない旧校舎の裏。
夕方のオレンジ色に染まった空の下で、瀬那は小さな缶を取り出して、それを私に差し出した。
「……昨日、甘いやつ飲んでたろ?これ、似てんの探した」
それは、ほんのりカフェオレの香りがする缶コーヒー。
「えっ、わざわざ……?」
「別に、帰りにコンビニ寄っただけ。ついでだし」
「……うそ。優しいくせに」
「違ぇし。……てか、前から思ってたけど」
瀬那は缶のフタを開ける音を聞きながら、ポツリと呟いた。
「お前、俺のこと……怖ぇって思ってたよな?」
「え……」
(それは、確かに最初は――)
「でも、今は……違う」
「へぇ」
彼は少しだけ口角を上げた。
それが、どこか嬉しそうで、私の胸はドクンと跳ねた。
「……あのね」
私は、缶を両手で持ちながら言った。
「私だけが知ってる、瀬那くんのこと。たぶん、いっぱいあると思う」
「……秘密、か?」
「うん。ふたりだけの、秘密だよ?」
その言葉に、瀬那が目を細めて笑った。
「……気に入った。そーいうの、嫌いじゃねぇ」
風がふわっと吹いた。
近くに落ちた桜の花びらが、ふたりの間にひらひらと舞い落ちる。
その距離、ほんの数センチ。
触れそうで、触れない距離。
でも、確実に“近づいてる”。
(ねぇ、瀬那くん)
(私はもう――)
あなたのこと、“怖い”なんて、思えないよ。
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▶次回:第4話《秘密と、カフェオレ》後編へつづく