嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
    ◇

 紘生が書斎に入るのを見送って一時間後。

 無事にメニューも決まり、晴れやかな気分で入浴を済ませた美七は、喉の渇きを潤そうと自室を出た。

 途中、開けっ放しの紘生の寝室を覗くが、まだ書斎にいるのか姿はない。

(先に寝ててもいい、と言われたけど、そもそも寝室は別なのよね)

 夫婦でもプライバシーは必要。まして美七は記憶を失っているからと気を使ってくれてのことだろう。

(でもこれって、新婚生活というよりただの同居生活では?)

 階段を下りながら美七は首を傾げた。

 結婚式後、式場に隣接するホテルに宿泊した時も、紘生とは別々の寝具で就寝した。
 新婚初夜という特別な雰囲気に流されて身体を許すつもりはなかったので、美七としてはありがたかった。
 だが、スイートルームのキングサイズベッドに、バラの花びらで象られたハートを見た時は、用意してくれたスタッフの気遣いを思うと、少し申し訳ない気持ちになった。

(紘生さんは、今のところ形だけの夫婦生活でいいみたいだけど……)

 おそらく、紘生の両親は跡継ぎを望んでいるはず。

 しかし今現在、離婚の可能性を捨てきれない美七は、紘生との間に子をもうけるつもりはない。
 そして、子を成すという妻の責務を果たせないなら、せめて自分の食い扶持は自分で稼ぐべきだろう。
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