† of Holly~聖の契約
首だけを持ち上げて、男を見る。

こんな場へ来るには、ずいぶん整った身なりをしていた。

村のほかの者より上品なたたずまい、それに見合うだけの高価な着物。

夏だからだろうが、着崩した藍色のひとえには、六本の筋が螺旋を描いていた。

挙措からも、良家の人間だとわかる。

同時に、人間の業の深さも感じた。

「……名のあるお家柄の方とお見受けしますが……よもや、そのような方までわたくしをなぶられますか?」

「いや、俺にそのつもりはないとも。安心しろ、今夜はゆっくりと眠れるようにしてある」

どういう、ことだろう。

なにか手を回している?

ならばなおさら、この男は何者か。

闇の中、男の顔だけがよく見えない。

袂に腕を入れ、ゆるりと立っているのはわかるが、表情が読めない。

「貴方は……いったい?」

ふふ、と、男が笑ったようだった。

「俺は六条という。この小さな界隈に束縛された憐れな巫女を悼む、非力な男だとも」

それは、果たして私へ当てたものか、単なる自嘲なのか、表情が見えないためにわからない。
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