† of Holly~聖の契約
「問答に問答で変えすらは義に反するだろうが……こちらから先に問わせてもらおう。お前、異常とはなんと思う?」

「異常……?」

考えている間に、男の姿が座所に遠ざかっていく。

この牢獄は地下だ。苔臭い通路の先に、階段があることだけ知っている。

男はさっさと行ってしまう。

人の質問に答えず、人に質問を与え、そのどちらも中途半端なまま、いったいどこへ行くというのか。

現れた時もそうなれば、去る時もまたなんと不躾だろうか。

もはやほとんど闇に溶け込んでいる男は、

「また来るぞ」

声だけを送ってきた。

「その時に答えを聞こう。その答えに応じて、お前の問いにも答えるとするさ」

「……約束してくださいますか」

問うたものの……男の声が返事をすることは、なかった。

静寂が窮屈な牢獄の中で臓物のように、とぐろを巻く。
< 9 / 72 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop