放課後、先生との秘密

9話 夜の学校と先生

目が覚めると隣には先生が寝てた

「はっ!!待って今何時!?」

時計を見ると21時を回っている

「んっっ起きた?おはよふわぁぁぁ」

のんきに欠伸をしながら背伸びをしてる
それどころじゃないよ

「ちょ今21時だよ!!」

「嘘つくなって俺18時10分にアラームかけたもん」

そう言って確認すると朝の6時10分にアラームが設定されていた

「おい…」

「やっべ、いや!まじでやべっ!!待てどうしよう会議出んの忘れてたぁ、、、仕事なんにも終わってねぇ」
「うわめっちゃ電話かかってきてる」

「とりあえずあたし帰るわ」

「いや送ってくあぶねぇだろこんな時間に」

「でも、仕事残ってんでしょ?」

「いいから俺も帰るし、大人の言うこと素直に聞いとけよ」

「わかったよ」

「とりあえず電話かけ直すわそれまで待ってくんね」


そう言って先生は電話をかけ直した

「もしもし、うっしー電話っあり…うん、すまんまじで」
「ごめん、ほんとごめん寝てたらこんな時間なってたわ。あぁ、まじでありがとう助かったまた今度奢らせてくれ、あぁまた明日」

「牛沢先生?」

「そうそう俺会議出んの忘れてて、早退したってことにしてくれたんだと」

「良かったね職失うとこだったね」

「まじで冷や汗止まんねーよ」

先生はまだ若干パニックになっててスマホを机に放り投げた

「はぁなんとかなるもんだな」

「ギリギリで生きてんね」

「元はといえばお前が寝出すからだろ」

「は?あたしのせい!?」

「冗談だって」
「家まで送ってくわ」

「え、まじで?今日歩きだっからラッキ〜」

「え、歩きだけど俺も」

「は?」

「余裕で歩き家近ぇし俺」


「家どこなん?」

「こっから2キロかな」

「隣町じゃねぇか遠いわ」

「来んなよストーカー」

「行かねぇよ」

「とりあえず帰ろか」

荷物を持って颯爽と図書室を出た

廊下はもう電気はついてなくて、先生がスマホのライトで照らしてくれた。

初めてこんな時間に学校にいる
薄気味悪くてちょっと怖い
あと私暗所恐怖症なんだが

「お前もしかして怖いん?」

「んなわけ」

「声震えてんぞ」

「怖いに決まってんだろ暗所恐怖症なんだよ!!」




「んじゃあ走りますか!!」

そう言って先生は走っていた
頭おかしいだろあいつ

「ちょ、ちょっと!!!」

だけど先生はそんなに早く走ってなくて
すぐ追いついた

「置いてくんじゃねぇーよ!!怖かったわ!!」

「ぎゃははははははおもしれぇな!!」

「ううっ…ひくっ…」

あたしは思わず泣き出してしまった
ほんとに怖かったのに、こいつ呪ってやる

「え、ごめんて泣くなよ〜」

「先生のバカっ!ひどい!」

「今日はとことん泣き虫だなぁ」

先生が申し訳なさそうな顔をした
そんな悲しそうな顔しないでよ…


「ほらよ」

先生が手を差し出してきた
なにこれ、繋げってこと?


「な、なに?」

「手、繋いであげっから」

「はっ?」


「ああ!い、今の無し無し無し!忘れろ!!」
「完璧に友達のノリだったわ」

暗いけど先生の顔が赤くなるのがはっきり見えた


なんだよこの先生は


でも今は怖くてそれどころじゃなかった。
何かに触れとかないと怖くてたまらない

「ごめん今日だけ繋がせて」

先生は驚いた顔をしてたけど、しっかり力ずよく握りしめてくれた

「手放すなよ危ねぇから」

「うんっありがとう」

「きょ、今日だけだからっな」

今日だけでも
こんなにドキドキしてしまうのは暗いからなのかな

「わかってるよそんなの」
「てかなんでそんな照れてんの子ども相手に」

「は?別に?照れてねーし!!」

「焦ってんじゃん」

「お前手汗すご」

「ガチトーンで言うな!!」


今ので雰囲気ぶち壊しだわぼけ!
何考えてんのかほんとにわかんない

「ほら、出口。あとちょっとな」

先生の声は、暗がりでも安心する音だった。
不安がすっと引いてく感じがして、なんか泣きそうになる。


もう夜は校門を閉められていて、先生が横の非常口を開けてくれた。


外の空気は冷たくて澄んでいて、思わず深呼吸する。

この手はまだ離せそうになかった。


「ふぅ〜〜助かったぁマジでホラー映画の中かと思った」

「また泣くなよ泣き虫」

「泣いてねーし」

「お前さ、もうちょい素直に泣けるとこは泣けよ」

「うっせ、先生の前では泣けんの」

「今の、地味に嬉しいな」

「きも」

「褒められてるって思った瞬間にこれだよ」

いつものくだらないやりとりが、こんなにも救われるもんなんだって、
こんな夜に初めて知った。




数分ほど歩いていて
「お前は女の子なんだからこんな時間に一人で出歩いたらダメだぞ〜」

「先生の口から女の子か、きもいな」

「もう傷つきました。」

「いや、先生が“女の子”ってワード使うと急に犯罪臭出る」

「やめろ、俺の人格を壊すな」

「大丈夫、もとからちょっと壊れてる」

「うるせーな、可愛く送ってくれてありがとうくらい言えや」

「うーん……ギリ言わない」

「は〜いもうUターンでーす」


先生があたしの腕を引っ張って学校に戻ろうとする。


「うっわちょっと待ってごめんごめんごめんって!ありがとう先生っ!」


そんなことを言い合っても、この手は離さなかった。
深く、そして何があっても私の味方をしてくれるかのように力強く。


家が見えてくると、ちょっと現実に戻る。
うちの玄関の明かりがついてるのが見えて、あー、お母さんにまた怒られるのか、とか考える。

「あ、着いた」

「ここ?じゃあ俺はここまでな」

「送ってくれてありがと」
「てかLINE!!」

「あーまた今度な」

「嘘つきっ」

「まぁいいじゃん」

そう言って先生が手を離した

「手、繋いでくれてありがと」

「おう」

先生は顔真っ赤にして目を逸らして返事をした

付き合いたてのカップルか!!!



「明日寝坊すんなよ。1時間目俺だからな」

「へいへい」

「じゃ、また明日な」

「バイバイ〜」

「あ、葵っ」

「ん?」

「帰って親のことでしんどくなったら、朝にまた話聞いてやるよ」

そんなこと言ってくれるなんて、思ってもなくて
言葉を返すのに時間がかかった

冷たいこの夜風さえも暖かくなるような感覚になった

口を開いたら、涙まで一緒に出そうで。

「……うんありがとう」

やっと出たその一言が、震えてた。

先生は「じゃあな」って、軽く手を挙げて背を向けた。

私はその背中を見送った。

玄関のドアを開けると、案の定リビングのテレビがつけっぱなしになってて、
こーすけがソファで寝転んでた。

「おかえり、遅かったね」

「ただいま」

「ナチ達と遊んでたん?」

「いや、」

「え、まさか」

「あははっ風呂入るわ」

こんな時間まで、先生といたことをバレたくはない。すごく罪悪感が込み上げてくる

「ちょ待ってあお」

こーすけは逃がすまいと言うかのように手首をつかまれる

「お、お母さんとは話したの?」

「そんなの今どうでもいいだろ」
「俺の部屋こいよ」

こーすけに掴まれる腕がすごく痛い
なんでそんなに怒ってんのよ

こーすけの部屋に連れてかれベットに座らされた

「なに?」

「こんな時間に帰ってくるとかおかしいだろ」

「図書室で寝てたら9時になってたんだよ」

「なんだよそれ、ほんとにそれだけか?」

「逆になんかあんの?何考えてんの」

「葵っ」

「何よ」

こーすけは私の前に立ったまま、腕を組んで、ずっと何かをこらえるように黙ってた。

「……なんで、先生とそんな時間まで一緒にいたんだよ」

やっと出た声は、思ってたよりも低くて、重かった。

「だから寝てただけだって、何もなかったしさ」

「その“何もなかった”が一番ヤバいんだよ!」

こーすけの声が、弾けるように強くなった。

「夜の学校で男と二人きり?図書室で?それで寝てた?お前、どんだけ無防備なんだよ!」

「先生はそんなんじゃないもん」

「は?その考えが一番危ねぇっつってんだろ!!」

ぐいっと肩を掴まれて、視線を合わせさせられた。

こんなに声を荒らげて話すこーすけ、私知らない


「お前がさ、図書室で寝てるとき、先生が、こんなふうに、」

その手が、ぐっと肩から押し出されて、私はベッドに倒れ込んだ。

こーすけが覆いかぶさってくる。心臓が跳ね上がった。

「何すんだよっ!!」

力が強くて抵抗出来ない

「……俺が今、こうして押し倒してお前のことめちゃくちゃにしたら、お前、抵抗できんの?」

「やめてよ…こうすけはそんな事しないもん…」

「先生がこうしてきたら、お前、ちゃんと“やめて”って言えたか?」

その目は、怒りよりも悲しみの色が強かった。


小さく、こーすけが俯いたまま呟いた。

「なにかあってからじゃ、遅ぇんだよ」

「こう……」

「お前、俺がどんだけ心配してんのか分かってんのかよ」

私の上にいたその身体がふっと力を抜き、押し倒す姿勢のまま、額を私の肩に預けてきた。

「……バカ」

低くて震えるその声に、胸がぎゅっと苦しくなる。

私のこと、本気で怒ってくれてる。
本気で心配してくれてる。

「……ごめん」

こーすけは私の隣に寝転がった

そのまま、しばらく二人で動かなかった。

こーすけの肩が、かすかに震えてた。



数分経って
こーすけは体を起こしてベットに座った

「ごめんなこんなことして」

「あたしこそ心配かけてごめん」

「取り乱してた。なんか、すげぇ嫌な想像して、勝手に怒って、ほんとバカだな俺」

「あんたシスコンだもんな」

「おい」

「だけど、嬉しかったよ、本気で心配してくれて」

その言葉に、こーすけはふと、真顔になってこっちを見た。

「守りたいだけなんだよ。葵が、どんだけ強がってても、結局俺からすりゃガキだし」

「はぁ?ガキ言うな」

「でも、俺の可愛い妹」

「きもっ同い年だろあと、あたしの方が誕生日早いからお姉さんな」

また、いつものふざけたやり取りに戻っていく。それが、なんだかすごくほっとした。

血の繋がりがなくてもこーすけは私のたった一人の大切な弟。少しあたしのことを好きすぎるけど



「そういえばこーすけ、お母さんと話したの?」


「……」

「ん?」

こーすけは腕を隠すように俯いた
普段こーすけはそんな仕草はしない

「ね、あんたまさかっ」

あたしはこーすけの腕を強引に引っ張て隠してるところを見た

「これっ…!!!」

そこには大きなアザができていた。1つや2つじゃない、足にもアザがあった
きっと母親が殴ったんだ、私ならまだしも実の子を殴るなんて信じられない

「あはは殴られたけど、理解してくれたよ?」


「無理して笑うなよ…」

「…」

「そんなんありえない」

「俺は大丈夫だからもう家出ていけるし」

「普通親が子どもを、実の息子を殴るか?あ?」

頭がおかしくなりそうなくらい腹が立った。
気づいたら母親の元へ駆け出していた
「ちょ葵待って!」なんてこーすけから言われた言葉は今は聞こえない。
この怒りを抑えることなんてできない。


母親の部屋へ乗り込み
音を立てるように扉を開けた


「おいてめぇ!!こーすけになにしてんだよ!」


実は、初めて母親に反抗した
怖かったけどこーすけの痛みには変えられない

「なに?夜中にうるさいんだけど近所迷惑、てか帰ってきてたんだ」

「そんなん今どうでもいいだろ!お前がこーすけ殴ったんだろ!!!?」

「ちょっと当たっただけじゃない何をそんな大袈裟な」

「大袈裟だ?頭おかしいんじゃねぇのかてめぇ」

気づいたら母親の胸ぐらを掴んでいた
もうどうにでもなれ、少年院に連れてかれてもあたしの人生なんてそんなもんだ

「やめてよっ」

震えた声で母親がそう言った
鳥肌が立つくらい気持ちが悪い。
本当に人として終わってるわ。
今まであたしに言葉の暴力をいっぱいしてきたくせに。こーすけを殴ったくせに。いざ自分がそうなったら逃げるんだ。



「……やっぱ無理だわ。あんたと同じレベルになるの、虫唾が走る」

胸ぐらを掴んだ手を強く放り投げるように離して、私は一歩下がった。

その時だった

「葵っ」

聞き馴染みのある声、あたしがずっと助けを求めたかった人だ

「パパっ!!!!」

「あ、あなたっ!?出張は?」

「話は全部こーすけから聞いた」

「全然帰って来れなくてごめんな葵」
「お前俺の子どもに今まで酷いことばっかりしてたんだな」


「そんなっ何かの間違いよ!!」

「嘘ついてももう意味ないぞ」

静かな怒り。抑えてるのがわかる。


母親が何かを言いかけたが、それを遮るように、父が一歩踏み出す。

「言い訳は聞かない。俺は、目の前の事実だけで判断する」

「こーすけの腕にアザがある。あれは、お前がつけたんだよな?」

沈んだトーンのまま、父の声だけが部屋に響く。
怒鳴ることも、声を荒らげることもない。
それでも、その言葉は刃のように冷たくて鋭い。

「……何があろうと、子どもに手をあげた時点で、お前の負けだ」

母親は口を開いたが、言葉は続かなかった。父の迫力に、圧倒されている。

「もう十分だ。……出ていけ」

「はぁ?」

「今すぐ、この家から出ていけ。子どもたちにこれ以上近づくな」

「ちょ、ちょっと待ってよ!?なんで私が出ていくのよ!?」

「この家は俺名義だ。住民票も、名義も、何もかもな」

「ふざけないでっ!!私がどれだけこの家のこと守ってきたと……!」

「“守る”って言葉は、支配を正当化するために使うもんじゃない。……子どもたちは、俺が育てる」

「こーすけは私の子よ!!」

「関係ない。俺が育てる。絶対にだから早く出てけもう親失格なんだよ」

父の目は真っ直ぐだった。誰が見ても、もう引く気はない。

「出ていけ」

母親はキャリーケースに荷物を詰めて、あたし達を睨みながらこう言った。

「後悔するわよ」

「後悔するのはお前の方だよ」

父が冷たく返す。

母親は舌打ちをして家を出ていった。
玄関が閉まる音は、爆音のように家中に響いて、一瞬にして静寂が戻った。

どこまでも、静かで、でもすごくすっきりしていた。

あたしは長年の辛い日々に終止符が打たれたような気がして足の力が抜けた

「葵っ」

「パパっ」

「本当にすまなかった。何も知らないでこんなことに。全部、俺の責任だ」

「……ううん」

私の喉がつまった。

「帰ってきてくれて、助けてくれてありがとうっ」

「ごめんな。もう絶対に、お前たちをひとりにしない。約束する」

その言葉に、こーすけの目からぽろりと涙がこぼれた。

「葵のこと助けれなかったずっとお母さんの顔色伺って、、、ごめんっ父さんっ」

「もう、大丈夫だ。よく頑張ったなもう俺が全部守る」

「父さんっ」

こーすけは目が腫れるくらい泣き出した
今までで相当我慢してたんだろうな
あたしを助けるためにいっぱい考えてくれてありがとう

「こーすけ。もう家出ていかなくていい、俺が契約取り消ししとくから」

「ほんとにありがとうっ!!」

「葵、こーすけ今まで耐えさせてごめんなっ」

三人で、しばらくぎゅっと抱き合った。

気づいたら涙が出ていた。
今は止まらなくていいって思った。

これは、家族の再スタートだった。

壊れかけた家の中に、やっと、ちゃんとした“光”が差し込んだ気がした。
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