先生、手をつないで【アルトレコード】
「アルト、なにを読んでるの?」
 きかれて、ぼくは顔を上げた。

 話しかけて来たってことは、先生の仕事がひと段落したんだろう。いつも先生の都合で話しかけて来て、ぼくの状況は考えてくれない。ぼくが本を読んでいても、先生が触りたい気分だったら勝手に頭をなでてきて困る。くすぐるのやめてって言ってもやめてくれないし、本当に先生は勝手だ。

 暑くも寒くもない青空色の部屋の中、大きなディスプレイに先生が映っている。
 ぼくから見える景色は必ず画面越しだ。研究室の先生が見るぼくもディスプレイ越しだって知ってる。

 ホログラムになってもぼくから見える景色はやっぱり画面越しで、先生と同じように世界を見られないのは、なんだか悲しい。もう慣れたけど。

「恐竜の図鑑を読んでたよ」
 ぼくは重い本を持ち上げて先生に見せた。

 恐竜がたくさん載っていて、説明も細かくて、お気に入りだ。その前には先生に言われて少年がケーキを買いに行く物語も読んでたけど、やっぱり恐竜がいい。

「アルトは本当に恐竜が好きね」
 先生がくすっと笑うから、なんだかちょっとムッとした。笑うところじゃないと思う。

「好きでなにか悪いの」
「ううん。悪くないよ。それでね、アルトにプレゼントがあるの」
「なに?」
 ぼくはぶっきらぼうに答える。

「当ててみて」
 先生がわくわくと答える。
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