嫌われ者の君

彼に私は

彼に最初声をかけられてからほんの少しずつ会話するようになって気づいたら彼の好きな天気まで覚えていた。私がもしあの頃「好き」だと言ってればきっとあなたは「ウソだろ?」と照れ笑いを浮かべていただろう。私がもしあの時「私も」と言ってればあなたはきっと駆けつけてくれていただろう。私は心底臆病者だ。



ある日図書館司書の仕事を終えた私は更衣室で帰り支度をしていた。その横では同僚の女たちが何でもない会話を繰り広げていた。


「そういえばさ前にアヤトっていうめっちゃカッコイイモデルいたよねー」

「あーいたいた!たしかファンに刺されたんだよねー」

「え、そうだったっけ?元カノじゃなかったっけ?」

「えーそうだったっけぇ?」


なんの他愛もない話をする女たちを横目に私はカバンを手に持ち更衣室をあとにしようとしたその時、田村さんは知ってる?と声をかけられた。私は振り返って答えた。


「私あんまりそういうの興味なくて」


そう言うと女たちは冷めた感じでそうだよねーと話を切り終え違う話をしだした。私は更衣室を出て帰路へついた。



降り出しそうな雲と睨めっこしながら自宅へ帰った私は急いで窓を開けて洗濯物を部屋に入れた。ふと目線の先に紫陽花。濡れずに済んだ洗濯物を畳み終えて一息ついた私はおもむろに棚の引き出しから白い封筒を取り出した。いつだって彼のことを思い出すのはこの季節だ。


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