さよなら、痛みの恋 ― そして君と朝を迎える
第一章 笑顔の裏に
「じゃあ、今日の会議の資料、私がまとめておくね」
いつものように、穏やかな声でそう告げると、佐伯紗夜(さえき さよ)は机に向き直った。白いブラウスの袖をまくる手は、ほんのわずかに震えている。
それを見逃さなかったのは、同じチームで働く幼なじみの一ノ瀬(いちのせ)悠真(ゆうま)だけだった。
「……紗夜、大丈夫か?」
「うん。ちょっと寝不足なだけ」
嘘だ。
昨夜、彼――付き合っているはずの恋人、直哉に突き飛ばされて壁にぶつかった肩がまだ鈍く痛んでいた。理由は、彼のスマホを何気なく覗いたからだった。