さよなら、痛みの恋 ― そして君と朝を迎える
彼は一度怒り出すと、手をあげることをためらわない。けれど、紗夜はそれを「自分が悪いから」と思い込もうとしていた。
けれど、悠真の目は鋭かった。中学の頃から一緒にいた彼は、彼女のわずかな変化にも気づく。
「紗夜……その肩、どうした?」
――バレた。
彼女は目を逸らしたが、悠真はそれ以上は詮索せず、そっとパソコンの画面に視線を戻した。ただ、その横顔は明らかに怒りを隠していた。
そしてその日の昼休み。
「紗夜。ちょっと、屋上来てくれない?」
静かなトーンでそう言った悠真についていくと、彼は扉が閉まった途端、まっすぐ紗夜を見た。
「アイツに……殴られてるんだろ?」
「――違う。私が悪くて、ちょっと……」
「違わない。紗夜は悪くない。お前がどんなに我慢しても、手をあげるヤツが正しいわけない」
紗夜は目を伏せた。けれど、悠真の言葉が胸に沁みて、涙がこぼれた。
「でも……どうしていいか分からなくて……怖くて」
「だったら、俺が助ける。紗夜がちゃんと別れられるように、全部、支える。逃げるときは一緒だ。俺、もう見ていられないんだ」
そのとき初めて、紗夜は悠真の手が震えていることに気づいた。
彼も、怖かったのだ。怒りで。無力感で。けれど、それでも手を差し伸べてくれた。
その日から、彼らの秘密の計画が始まった。