Love Potion
 その日、美月という大きな存在を失ったと確信した日――。

「ただいま」
 外が暗くなったため、家に帰った。
 引っ越した家は、前に住んでいたアパートよりもボロボロの木造アパート。
 父さんも新しいお母さんもお金がないみたいだ。

「おかえり」
 新しいお母さんが声をかけてくれる。
 部屋を見渡す。
 父さん、まだ帰ってきてないんだ。

「ね、迅くん。《《今日も》》お母さんと楽しいことしようか?」

 お酒の匂いがした。
 嫌な予感がする。
 楽しいこと、お母さんはいつもそう言って俺を――。

「いやだ」
 後ずさりをした。
 逃げたい、ここから逃げたい。
 
 どこにも逃げるところがないことはわかっていた。
 お母さんが俺の手を掴む。
 所詮はまだ子ども、力では敵わない。

 必死に抵抗すると
「お父さんにバラすよ。《《初めて》》じゃないんだから、もう観念しな」

 力が抜ける。
 洋服を脱がされ、そして――。

「やめて!お母さん!」

…―――…―――――――…・――――
 

 
 パッと目が覚めた。
 嫌な汗をかいている。

 しかし
「大丈夫?加賀宮さん、うなされてたけど。お水飲む?」
 美月が心配そうに俺の顔を覗いていた。

「あぁ……。悪夢を見た。ごめん。水ちょうだい」

「うん」
 彼女は立ち上がり、水を持って来てくれた。
 
 俺は起き上がり、彼女から水を受け取る。
 身体が怠い。

「ごめんね。加賀宮さん、うどん作ろうと思ったんだけど、加賀宮さんすぐ寝ちゃって。起こしちゃうのも嫌だったし、なんだか苦しそうだったから、心配で。まだ作ってない。今から作るから、ちょっと待ってて?」

 美月に氷枕を置かれた後の記憶がない。
 俺はすぐ寝ちゃったのか。

「いや、俺の方こそごめん。何時間くらい寝てた?」

「えっと、そんなに寝てないよ。三十分くらいかな」

 体調が悪いと必ずと言っていいほど、過去の思い出したくはない悪夢を見る。今日は、小さい頃の美月が夢に出てきてちょっとはマシだったけど。

「ねぇ、大丈夫?顔色悪いよ。そんなに酷い夢を見たの?嫌な夢は、人に話した方が良いってどこかで聞いたことある。迷信かもだけど。私で良かったら聞くよ」
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