アルト、美術館に行く【アルトレコード】
 建物の中は静かで薄暗かった。平日のせいか、人は少ない。
 私はアルトの入った端末を取り出した。

「じゃーん! 撮影オッケー、触ってオッケーの美術館です!」

 小声でネタバラシをしつつ、アルトの端末を会場に向ける。

 絨毯の敷かれた薄暗い館内の壁に、大きな額、小さな額に入ったさまざまな絵画がある。
 部屋の中心には大きな彫刻があり、子どもが楽しそうに触っていた。

「は!?」
 アルトは驚いた声を上げ、それから周囲を見回した。

「マジかよ、そんな美術館あるのか!?」
「あったのよ。フラッシュ禁止だけどね。都内にあってよかった〜。今はけっこう増えてるみたい」

「マジか……」
 アルトは感動とも驚きともつかない声を上げる。

「アルトの好きな画家じゃなくて申し訳ないけど、今日はゆっくり見て回れるね!」
「なにしてくれてんだよ」
 アルトが怒ったように言い、私は硬直した。
 やっぱり、余計なお世話だったのだろうか。

「先生、仕事あるんだろ。俺なんかのためにこんな時間さいてる暇ないだろ」
 アルトは吊り目をさらに釣り上げる。
 が、私はつい笑ってしまった。

「なに笑ってんだよ!」
「ごめん、アルトの優しさが嬉しくて。大丈夫、北斗さんには許可をもらってるし、仕事も調整してきたから」

「調整しなきゃいけなかったんじゃねーか」
「いいの。私がアルトと美術館に来たかったんだから」

「……んだよ、ったく」
 アルトは片手で口元を覆うようにして文句をつける。彼の照れたときのくせだ。

「せっかくだから、見てってやるよ」
「……うーん、いくらツンデレでもそういう言い方は良くないかな」

「ったく、先生はどこまで行っても先生だな。わかったよ。サンキューな」
 天邪鬼だけど、注意にはわりと素直だ。こんなところがかわいくて、やっぱり私はアルトが大好きだ。

 私は端末をかかげ、アルトの気が済むまで美術館を一緒に回った。





終
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