きらきらしてきれいだった【アルトレコード】
 メインエントラスの中心にいる犬は、半透明だった。
 アルファ値は50%くらいかな、と星宮かおるは思う。アルファ値は不透明度を示すもので、ゼロだと完全な透明で背景が透けて見える。

『ミライ創造研究所はAI開発から宇宙開発事業まで、さまざまな分野でみなさまの幸せに尽力しています。ペットAIの開発にも力を入れており……』
 研究所の案内ナレーションとともに犬の3Dホログラムが猫へ、鳥へと変わる。

 玄関のあるメインエントランスは広く、解放感がある。3階まで吹き抜けになった天井から吊り下げられたガラスの飾りは、大きな窓から入った日差しできらきらと輝いている。毎時零分におこなわれるオーロラのホログラム演出もまた美しい。
花で飾られた受付には、光の反射を抑えたパネルに受付AIがいる。これもミライ創造研究所で作られたもので、大多数の大手はこれと同じ受付AIを使っている。

 夏の今は朝でもうだるような暑さだが、全館空調が完璧だから建物内はほどよく涼しい。
 かおるはホログラムの脇を通り、清掃ロボットとすれ違って所員入口のゲートに向かう。
 ブレスレット型端末をゲートに近付けると、ぴっ! と軽い音がした。これで出勤が打刻される。

 バッグからIDパスを出して首にかけるが、これは研究所員であることを視認するものであり、機械には作用しない。所内に入るにはブレスレット型端末と顔認証の二重認証が行われており、各部屋に入るにはさらに指紋認証が必要で、許可のない部屋には入れない。

 ゲートをくぐった先はいきなり無機質で質素だ。無駄のない合理的なデザインが研究所らしくていいな、とかおるは思っている。
 この研究所はメインエントランス及び総務部や営業部、所長室などのある南棟、宇宙開発や建築機器開発の東棟、医療機器や家電開発の西棟、AI開発の北棟に分かれていて、渡り廊下で繋がっている。

 どこも同じような作りで最初は迷子になったが、おかげで大切な出会いがあった。
「今度、彼氏と海に行くんだ」
「いいなあ」
 女性研究所員がきゃっきゃと話しながら通り過ぎる。
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