Someday 〜未来で逢いましょう〜
20☓☓年 時間旅行が出来る現世があった。

ここは20年前のハワイオワフ島カイルアビーチ。
美紗子はパウダーのように細かい白い砂の上にそっと足を踏み入れ、瞳に容赦なく映り込んでくる絶景に立ち尽くす。
目の前に拡がる広大な海から吹く風を全身に受け、真っ直ぐな陽射しは水色のノースリーブから伸びる腕に刺さるようだ。
白いAラインのロングスカートの裾と肩下まである髪は、海から陸へ向かって吹く風をダイレクトに受け、ウェーブを描いてはためき続ける。
「本当に来ちゃったな……」
美紗子の背中側には、ヤシとナウパカと呼ばれる木々。
ランダムに植わる緑が、澄んだオーシャンブルーの海と平行に白い砂浜を挟みながら、島の輪郭に沿って和弓のように緩やかな湾曲を描いて目に映る限り遠くまで続いている。
美紗子は込み上げてくる感動を落ち着かせるように息をふぅ…と細く長く吐きながら、この大自然の景色をゆっくり180°見渡す。
一点の曇りもない青い空のスクリーンには、これまでの出来事がスライドショーのように一枚一枚映り流れてゆくようだった。

20年前…と言っても現世とさほど大きな変化は感じない。
為替レートの円安は進み続け、携帯電話はガラケーからスマートフォンに移行し、現金を持ち合わせないタッチ決済の支払いが浸透し始め、携帯ひとつで今や何通りもの役割を果たす重要アイテムとなった。
海外で携帯電話を使用する際は当時、現地で滞在期間内の無料貸出を申し込んだ記憶があるが、今では事前手続と切替で自分のものをそのまま使えると聞いた。
世界中、携帯電話のない生活は考えられない人々が多い世の中に変わった…20年前に比べて、それが一番変わったことではないだろうか。
現代では、技術だけではないきめ細やかなサービスや商品の便利さにあふれ、当たり前に慣れてしまっている。

美紗子がこの場所へ来た20年前、カイルアビーチへのオプショナルツアーは新しく出来て間もなく、美紗子が所有しているクレジットカードの現地海外サービス窓口で新しいこのオプショナルツアーを勧められて来たのだった。
全米ベストビーチランキングの常連であるこの場所は、ロコしか訪れない穴場スポットだった。
そのビーチを新しいオプショナルツアーとして売出し始めたタイミングで窓口の女性スタッフがパンフレットを差し出してきた。
「マリンスポーツはもちろん、お子さんも極上の砂でお砂遊びができますし、ボールやフロートマットで親御様も一緒に楽しめると思います。景色だけで元は取れるくらい素晴らしいところですから、家族で過ごすのにかなりお勧めです。」
昼食付ではあるが、それを含めてその場所へ行く往復の交通費にしては、設定金額が少々お高めだなとは感じたが、パンフレットの中のその海の美しさに紙越しで魅せられ、ぜひとも体感したいと美紗子の独断で即座に申し込んだ。
その日に申し込んだ日本人は美紗子達を含めて二組。
到着したビーチの公共駐車場そばにある小さなショッピングモールの一角にこのツアーを企画営業している事務所があり、集合場所でもある。集合時間まで海やショッピングモール、食事を自由に楽しめる。
持参したお砂場セットを子供に持たせ、シュノーケリングセットとフロートマットは夫が持ち、美紗子は着替えの入った大きなキャンバス生地のビーチバッグを肩からかけ、はしゃいで先を急ぐ子供に手を引っ張られながら歩く。
海まで数メートルの木々を掻き分けるように小路をすり抜け、目の前に現れたカイルアの海と空の青、雲と砂の白さに、まだ2歳の莉子と夫の和也と美紗子の3人は、あまりの絶景にしばらく絶句して立ち尽くした。
いつかまたここに来たい。この景色を見たい。
この上ない幸せを感じた思い出の時間だった。
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