ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

二十六話

 緋色の外壁の建物に入ると華やかな内装が目に留まった。洗練されたデザインに思わず息を呑む。店内は年若い男女で賑わいを見せており又彼等が貴族なのは装いから一目瞭然だった。
 入り口で暫し待っていると店の奥から小綺麗な初老の男が姿を現しマンフレットに声を掛け丁寧にお辞儀をする。

「マンフレット・ヴィルマ様、お待ちしておりました。そちらが奥様のエーファ様でございますね。私はこの店を経営しておりますラスと申します。エーファ様、どうぞお見知りおきを。用意は整っておりますので、ご案内致します」
「あぁ、頼む」

 ラスに誘導され店の奥へと進んで行く。その途中少し離れたテーブル席に座る人々から視線を感じた。ひそひそと内緒話の様に話してはいるが、然程距離がない為丸聞こえだ。

「マンフレット様とご一緒の方……」
「あぁ、例の後妻だろう……」
「ブリュンヒルデ様の……」
「凄いわね、厚顔無恥とは彼女みたいな人間を……」
「罪を犯してまで……」

(大丈夫、何時もの事だもの……別に、気になんて……)
 
『彼女を殺して自分が代わりにヴィダル公爵家に嫁ぐ打算をするなんて。怖い女だ』

(っーー)

 気持ちを落ち着かせ様とするが、ふと夜会の時に言われた言葉が頭に過ぎった。エーファはブリュンヒルデの死の真相は知らない。きっとそれはこの人達だって同じだろう。だが一つ言えるのは、嘘が真実かなどこの人達には関係ないという事だ。

「噂話が好きな人間は下らない人間ばかりだな。ラスもそう思わないか?」

 不意にマンフレットが鼻を鳴らしそう声を掛けた。

「左様でございますね。出所も知れぬ話を然も己が見たかの様に語り、真意を測る事すら放棄する姿はまるで道化の如く」

 ラスは穏やかにまるで今日の天気でも語るくらいの軽やかな口調でゆったりと話す。決して大きな声はないが、良く通る声の為に皆聞こえたらしく店内は一気に静まり返った。
 思い掛け無い展開にエーファは目を丸くしていると、椅子が引く音が聞こえ一人の男が立ち上がった。そしてその男は迷わずマンフレットへと向かって来た。

「君は相変わらずだね。もっと気楽に生きれないものかね」

 男性にしては華奢で派手な髪型と恰好の男は、エーファ達の行手を遮る様にして足を止めた。

「そんな目くじら立てるなよ。皆興味津々なだけなんだから、君の前妻のブリュンヒルデの死の真相をさ。僕の見解は君と後妻の彼女が共謀してブリュンヒルデ嬢を陥れたんじゃないかなと思ってるんだ。だってさ、ブリュンヒルデ嬢が亡くなってからたった半年で前妻の実妹である彼女を後妻に迎え入れただろう? 幾ら政略結婚でも怪しいよねぇ。でもまあ……それだけの価値が彼女にあるとは到底思えないけど……あぁ、もしかして君って悪食家?」

 男は眉根を寄せ顎に手をエーファを品定めするかの様に見ると、態とらしく手を打ち嫌味を言って笑った。それでもマンフレットは相変わらず眉一つ動かす事はない。その様子に男は勝ち誇った様に今度は鼻を鳴らした。

「良し、行け」

 にゃッー‼︎

 だが次の瞬間マンフレットの合図と共にエメが男の顔にダイブした。その時マンフレットが冷笑するのが見えた。
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