君が隠した光

4 未来へ

季節は秋へと移り変わり、校庭の木々が赤く染まり始めていた。
鈴馬は、凛の手紙を何度も読み返していた。
文字のひとつひとつが、彼の心に深く刻まれていた。

「俺は…生きる。凛の分まで」
そう誓った日から、鈴馬は変わった。

授業の合間に図書室へ通い、医学書を読み漁った。
「のうしゅく」という病気について調べるたび、凛がどれほど苦しかったかを知った。
それでも、彼女は笑っていた。
その強さに、鈴馬は何度も涙した。

ある日、進路希望調査の紙に「医学部」と書いた。
先生は驚いた顔をしたが、鈴馬は迷いなく言った。
「僕、大切な人を病気で失いました。だから、誰かの命を守れる人になりたいんです」

凛の母から、凛が残した日記のコピーが届いた。
そこには、鈴馬との日々が綴られていた。
「今日、鈴馬が私の好きなアイスを買ってきてくれた。なんで好みわかるの?って聞いたら『好きな人のことは自然と覚えるんだよ』って。ずるいよ、そんなの泣いちゃうじゃん」
ページをめくるたび、凛の声が聞こえる気がした。

高校卒業の日、鈴馬は制服姿で凛の墓前に立った。
「凛、俺、ここまで来たよ。次は医者になる。君が教えてくれた命の重さ、絶対に忘れない」
風が吹き、桜の花びらが舞った。
まるで、凛が微笑んでいるようだった。

大学に進学した鈴馬は、「のうしゅく」の研究を志した。
論文の冒頭には、こう記した。


この研究は、私の大切な人――鏑木凛に捧げます。
彼女の命が、私に生きる意味をくれました。


そして、彼の机の上には、凛の手紙と、二人で撮った写真が飾られている。 笑顔の凛が、そこにいた。
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