奥さまが恋に落ちるまで
 出産という命がけのイベントが、もうずっと昔の話である私は、なんだか自分だけが早く老いてしまったような気もする。
 現在、35歳。
 決して、生き急いだわけではなく、こんなにものんびり暮らしているのに。
 夫の敦司さんは、とても優しい人。中学2年生の息子・翼も、非行に走るどころか反抗期すらなく、平和な日々を送っている。1年365日、常にハルシオンデイズ。
 よくも悪くも、刺激やドラマチックなどという言葉はどこにもない暮らしだ。
 そもそも、私は独身の頃から、ドラマチックな出来事とは無縁の人生を送ってきたので、それで物足りなさを感じることもないけれど。
 故郷である東京を離れ、この街の暮らしも10年以上になる。
 私が妊娠してまもない頃、
「この子には自然豊かな環境で育って欲しいけど、選択肢も色々あるほうがいいと思うんだ。だから、2年後に、都会過ぎず田舎過ぎない街に引っ越さない?」
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