先生×秘密 〜season2

知らないふりの夜

「最近、ちょっと痩せた?」

そんなふうにコメに聞こうと思った。
でも、職員室では誰かと話していたから、声をかけられなかった。

代わりに、自分の机でプリントに目を通しながら、隣の笑い声だけを聞いていた。

——その笑い声の相手が、渡部だったことに、気づかなかったわけじゃない。

***

帰り道
校門前の自販機。

缶コーヒーを手に取り 
歩き出そうとした時に
聞こえてきた。

「……あの二人、昔から知り合いだったらしいよ?」

「えっ、コメ先生と渡部先生? そうなんだ!」

「前の職場でも一緒だったんじゃない? 同じ学校とか聞いたことある」

生徒じゃない。教師らしき話し声だった。

角谷は缶コーヒーを握りしめた。

「……へえ」

独り言のように、つぶやく。

その夜は、LINEを開いたり閉じたりして、メッセージを打っては消していた。

『今日のコメ、ちょっと笑い方が違って見えた』

そんなこと、打てるわけがない。

***

日曜の夜、ようやく会えたコメと、駅前のファミレス。

「元気だった? 最近忙しそう」

「うん、なんか行事つづきで、バタバタしてて」

そう言って、彼女はポテトをつついた。
あいかわらず、手が細くて、箸の使い方がきれいだ。

角谷は、ふいに思い出した。

——渡部が印刷室に入ろうとして、立ち止まったあの瞬間。

ドアの向こうで、自分とコメが話していたことに気づいたはずだった。

「……渡部先生って、どんな先生?」

ポテトを持ったまま、コメが止まる。

「なんで?」

「いや、同じ学年だからさ。話す機会もあるかなって。……気になって」

「……うーん、昔、ちょっと知り合いだったけど。別に、普通だよ」

その言葉を信じるしかなかった。
でも、その“普通”の中に、どれだけの過去が含まれてるのかは、わからない。

***

帰り道。

並んで歩く彼女の横顔を見ながら、角谷は思う。

——「全部はわからない」
でも、それでもいいと思えるくらい、この人が好きなんだ。



「知ってる」って言わない優しさは、ときどき、自分を締めつける。


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