満月に引き寄せられた恋〜雪花姫とツンデレ副社長〜
急に所在ない気持ちになり、落ち着けずに帰ろうとしたそのとき、ノックの音とともにドアが開いた。

割烹着を着た、ふくよかで優しそうな女性が、サービスワゴンを押して入ってくる。

彼女は素早くコーヒーテーブルに配膳し、にこやかな笑顔を残して部屋を去っていった。

テーブルの上には──
和風おろしハンバーグを主菜に、
小鉢にはほうれん草のおひたし、
お豆腐と小ネギの味噌汁、
そして……、ごはん!

お茶碗にふんわりとよそわれた、ほかほかの白米。

思わず両手でお茶碗を包み込み、そのまましばし、うっとりと見つめてしまう。

……、ああ、美しい。

艶やかなモチ肌。純白の雪光(ゆきびかり)を放つ世界。一粒一粒が、まるで命を宿した妖精のようだ。


「おい、何見惚れてるんだよ。冷めないうちにいただこうぜ。……、まずは、そのお米。ごはんから食べてみてくれ」


熊男の声に、ハッと我に返る。

お箸で、妖精ちゃんたちをそっとすくい、口へ運ぶ。

──その瞬間。

淡い桜の香りがふわりと広がり、噛むほどに、お米の甘みと桜の風味が口の中を、そして鼻を静かに通り抜けていく。

もっとこの瞬間を味わっていたい。そう思うのに、雪のようにスーッと溶けて、儚く消えてしまう。

えっ……、なに、このお米!

私の驚いた反応を見て、熊男がふっと笑みをこぼす。


「おまえの率直な感想を聞かせろ。見た感じでも、食べた感じでも、なんでもいい」


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