吉野主任は年下大型ワンコ系部下に頭を撫でられたい
「ちょっと! ねぇ、西山君!」

 店を出てタクシーへ押し込まれる。ドカンッと当たり前に西山君も乗り込み、運転手に行き先を告げた。

「何処に行くつもり? 会社と逆方向じゃない」
「俺の部屋です」
「はい? 私はこれから部長をーーあぁ、もう!」
「落ち着いて下さい、危ないです」
「あのね、こんな急展開、落ち着ける訳ないでしょ!」

 頭を掻きむしりたくなり、仕草をしかける途中で手首を掴まれる。

「髪、グチャグチャになっちゃいますよ。編み込みが崩れる」
「お願い、説明して。どういうつもり?」

 走り出したタクシーは止まれない。腕を払い、座席にズルズルと埋もれた。

「ラーメンを食べるって約束、忘れちゃいましたか?」
「このタイミングで言う?」
「部長をやっつけるんでしょ? 手伝いますよ。で、腹が減っては戦はできぬってやつです」

 色々と言い返したいものの、確かに力が出ない。威勢や勇気を使い果たす。

「ラーメンを食べるとしても、部屋へ行く必要はないのでは?」
「会社に戻らなくても社用パソコン、ここにあるので。デリバリーを取りましょうよ〜あ、デリバリーだとクーポン使えませんが」

 私と西山君の間に挟まるビジネスバッグ。軽量かつ薄い形状は障害にしては頼りない。その気になれば飛び越えられる。

「いやいや、西山君の部屋に行く理由がーー」
「ダメっすか?」
「駄目だよ」
「どうして、ダメ?」

 街並みを眺める窓ガラス越し、首を傾げて見せた。

「そういう顔、ずるい。やめて」
「どんな顔っすか? 自覚がないもので」

 とか言い、意味深な笑みを深める。

「私を部屋に入れるって意味、分からない? 今さっきまで不倫を疑われた上司だよ?」
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