心理カウンセラーと傾国美男(イケメン)と社内公募婚~導きたいのに私が甘く導かれてます~
「痛っ!…すみません」

振りかえった瞬間めちゃくちゃ固い壁にぶち当たった感触に見上げてみた。

「新山様、専務があちらでお待ちです」

黒のジャケットに魚拓ならぬ顔拓にも動じない男性。
190㎝はある身長に特殊部隊所属並みの体型。
サングラス越しでも分かる鋭い視線…怖すぎる。

(…逃走するテレビに出て来そう)

指差す方向を見ると黒塗りの高級車が路肩に停まっていて視線を向けると後部座席の窓ガラスが降りて見知る男の目の位置で止まりまたガラスは閉められた。

「あの、行かないと」
「ダメです」

即座の回答。
今日のプランが一気に崩れ消されて行く。
そんな私の脳内なんてお構いなしで後ろのドアが開かれ「どうぞ」なんて言われたら素直に乗るしかない。

「お邪魔します」

後部座席に乗る先客に一声掛けて前方に視線をやった。

「俺、先生に電話したんだけどね」

少々冷えた彼の空気感はこれが原因か?
携帯を確認すると確かに連絡が入ってる。

「社長宅に向かって」

「あの、帰りたいんです…けど」

「先生って俺の何?」

そんなこと言われても多分望んでる答えは婚約者と言う名の嫁候補。
私は嫁候補になりたいわけじゃない。

「普通に派遣で働かせて貰ってる者です…けど…」

凍り付いた車内が一段と冷え込んで我慢出来ず言葉を飲み込んだ。

「そうか」
「そうです」

車は一つの振動もさせず無情に動き出し「サプライズ…」なにか呟いてるけどそんな言葉は私の耳には届かない。

「もう一度…はっきり言いますけど」
「普段飲めないようなワイン飲めるよ?」

高級ワイン!
いやいや…
騙されるわけには。

「食事もワインに合う物とか」

社長宅の高級ワインに食事…絶対美味しいと思う!
飛びつきたいけど一応確認しとかないと。

「普通の食事ですよね?紹介とかじゃなくて」

霧島さんも居ないしこれは秘書の代わりと言うことそう考えれば。

「普通の食事…それ以外に何が?」

「何もないですけど…」

何か間(ま)があったことは気になる。
けど、ご両親に会えばこんな話無かった事にして貰えるかも知れないし。
女優さんとの件を使うことも出来るかも知れない!

私自身で【嫁内定取り消し】を狙うしかない。

「楽にして良いから」

機嫌が戻ったのかいつもの笑みを浮かべられるけど今日はどうもいつもと様子が違う。

「分かりました」

女優さんとの噂を気にしてる?
何だかそわそわしてて面白い。

(…上手くいけば破棄出来る)

車窓を流れる景色を見つめる私を彼が見つめてるとは思ってもみなかった。
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