絆の光は未来へ

第一章 定期受診

春の気配が滲み始めた都会の街。衛生看護科の高校に通うあゆかは、いつものように今は規則正しい生活を送っていた。実習が始まるとそんな事は言ってられない位の生活になる。

周囲の友人からは明るく、しっかり者に見える彼女だが、心の中には誰にも打ち明けられない秘密があった。

数ヶ月に一度の定期受診。それは、あの日以来、あゆかの生活に組み込まれた避けられないルーティンだった。

診察室のドアを開けるたび、全身を覆うような緊張感に襲われる。医学生たちの視線に晒されるのは、何度経験しても慣れることはなかった。彼らが知識を深めるためだということは頭では理解していても、数人の見知らぬ学生に自分の最も見られたくない姿を見せることは、魂を削られるような苦痛だった。

この屈辱と不安は、高校の同級生にはもちろん、誰にも打ち明けられない…あゆかだけの秘密だった。

最近、あゆかの体は少し重かった。朝、ベッドから起き上がるのが億劫に感じたり、授業中にふとした瞬間に体がだるくなったりする。

「これはきっと、勉強のしすぎで、疲れが溜まっているだけ」自分に言い聞かせ、気にしないように努めた。

そして、その日は来た。今日は珍しく午前中のみの授業だったため、あゆかはこの日に合わせて定期受診の予約を入れていた。

午前中の授業を終え、学校から病院へ向かう足取りは、いつもより少し重い。診察が終われば、すぐに学校に戻って、クラスの友人たちと図書室で課題や実習前の事前学習をやる約束をしていた。

彼女たちの明るい声と笑顔に触れることが、今のあゆかには何よりの救いだった。
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