深夜13時の夜行バス

次の日。
私は出社時刻前の1時間早く塩原と弓削くんを呼び出した。
まだ殆ど社員は出勤していない、当然会議室は使われていない。

私は二人をそこに集めると
「今度のカフェ、コンセプトは”写真館”でいかない?」と長デスクに手をつき切り出した。

「「写真館??」」
塩原と弓削くんの声が重なった。

「でもコンセプトは自然との調和だろ?」と塩原が片眉を上げて腕を組む。
「だからだよ、あの辺一体は自然とは程遠い場所だった。特別きれいな緑や風景が広がってるわけじゃない。けれど昔は違ったようだよ」

私は昨日図書館でコピーしてきた歴史書のかつての街の風景が映しだされたいくつかの写真をテーブルに並べた。そこは活気溢れる明るい街並が続いていた。行き交う人々は皆笑顔だった。

「へぇ、味があっていいですね。昭和感があってレトロで。でも現在社会の調和って言う部分は?こじゃタイムスリップしてるじゃないですか」
「敢えてそこをつくの。店の周りには薔薇をいっぱい埋めて、敢えて近代間を出す必要性は無い。この”場所”の今と昔、というちょっとした歴史館みたいな感じのカフェってなかなか聞かないじゃない?
それにこれらの写真をきれいにディスプレイしたら、この高級そうなダークスモークのスイングボトルが映えると思う。
それにね、薔薇の品種は青一色で行こうかと思う。青色の薔薇は幾年かを経て人口配合で作られた色らしいよ?だからハイブリッドの意味も込めて」

私は以前渡されたラフランスジュースのボトルが写った資料を机に滑らせ、塩原がそれを受け取った。

「ふーん、なるほどいけるかもな。でも短い間でよく調べたな。アイデアもなかなかだし」
「まぁね…」

私はそこに行きつくまでのいきさつを軽く二人に話し聞かせた。
それは一昨日タクシーの運転手さんが教えてくれた”悲恋坂”の話。
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