深夜13時の夜行バス

気のせいかな……
どんどん最後尾の私が座っている席に近づいてきているような…

そして毎回変わらずの喪服姿。
黒い和服に黒い帯がちらりと見える。

やっぱり喪服だ。

白い横顔がちらりとこちらを向いた。完全に顔が見えたわけじゃない。
けれどその白い耳タブに

真珠の―――イヤリング……?しかも片方だけ。

私は数日前に見た悪夢の中の真珠を思い出した。
急にぞっと寒気が全身を走った。
けれど慌てて頭を振った。
真珠のイヤリングなんてどこにでもあるし、特別珍しいものじゃない。

でも……

どうしてあのひとはいつも喪服なのだろう。
そうそう、不幸が重なることもあまり考えられない。

気味が悪い。

最初はちょっと興味を持ったけれど、だんだんと気持ち悪くなってきた。
私はその女の人のことを極力見ることなく目を閉じた。

今度は睡魔はなかなかやってこなかった。
しかし心の奥底で、あのひとはどこで降りていくのだろう、という興味があったのかもしれない。

けれど私はまたも眠ってしまった。
単に疲れていただけかもしれない。けれど異常な程の強烈な眠気に襲われあっけなく夢の中へ。

――――

夢を見た。

色ははっきりとついていない、茶色だとか黒だとか薄暗い光景の中、広くて立派な和風の玄関口だと思われる所で、女の人の黒い着物の裾が翻るのが見えた。

『待ちなさい!(あおい)!』

あおい―――…?

誰…?

叫んでいたのは初老の女性だった。同じく着物姿だったけれどこちらは喪服ではない。訪問着といった感じだがどこか上流階級を思わせる口調と佇まい。彼女は喪服の―――葵と呼ばれた女の人の手を必死に掴んでいる。
葵さんの顔は良く見えない。白い頬、背は高い方。黒い喪服に

真珠のイヤリング……

『行かせて!
一臣(かずおみ)さんの処へ!』

喪服の………きっと葵さんだ、女性がそう叫んだ。

『あんた、自分が何をしようとしてるのか分かってるの!』初老の女性が叫び、葵…?さんの腕をさらに強く引いた。
葵さんはその腕を引きはがそうとして、玄関の沓脱場所、白い足袋がずるりと音を立てて滑った。

「あっ!」

私が声をあげると同時、葵さんはあっけなく玄関口に転んだ。
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