野いちご源氏物語 二五 蛍(ほたる)
源氏(げんじ)(きみ)兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)様がお越しになるのを待ち構えておられる。
そうとも知らず、宮様は「訪問を許す」という姫君(ひめぎみ)からのお返事にお心をときめかせて、人目(ひとめ)をしのんでお越しになった。
縁側(えんがわ)敷物(しきもの)()いて宮様のお席にする。
姫君はお部屋の(はし)、縁側の近くまでお出になって、薄い布でできたついたて越しにお座りになる。
会話の取次(とりつ)ぎ役をするために、宰相(さいしょう)(きみ)が近くに(ひか)えている。

源氏の君は入念に準備をなさって、お(こう)などもちょうどよいさりげなさでお()きになった。
本当の親でもないのに、しかも()(とど)きなことを姫君にしかけているのに、いったいどういうお気持ちでこんなにも張り切っていらっしゃるのかしらね。
緊張してうまく取次ぎ役ができない宰相の君を、源氏の君は小声でお(しか)りになる。
こんな見張り役がいては、さぞかしやりにくいでしょう。

新月(しんげつ)から少し()っているけれど、まだ月明かりはほとんどない。
しかも雲が多くて、しっとりとした宮様の雰囲気にぴったりの夜よ。
源氏の君のお着物の香りが、姫君のお部屋のお香と合わさって宮様のところまで届く。
ご想像以上に姫君のご様子が魅力的でうれしくお思いになった。
宮様のお話は落ち着いていて、恋心を激しく(うった)えることはなさらない。
やはりふつうの男性とは違っておられる。
<これはおもしろい>
源氏の君は姫君のうしろで物陰(ものかげ)に隠れて聞いていらっしゃる。
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