五妃伝 ~玉座に咲く愛~
だが王の耳には、あの“占い”という言葉だけが鮮明に残っていた。
「面白いな。」
玄曜が隣の陳亮に小さく言った。
「占いなど、ただの庶民の気まぐれです。」
警戒するように陳亮が応える。
「だが、当たるというのであれば――見てもらうのも一興だろう。」
そう言って、玄曜は微かに笑んだ。
その表情は、王としての威厳をたたえながらも、どこか年相応の若者のような、好奇心を含んでいた。
玄曜は布で顔を隠したまま、静かに列の最後尾に並んだ。
「……こんなにも待つのか。」
思わず漏らした言葉に、すぐ後ろに控えていた陳亮が身を寄せる。
「やめましょう、陛下。そんなに気にかかるなら、あとで後宮に呼び寄せればよろしい。」
「それでは、相手も気を遣うだろう。朕は、客として視られたい。」
その口調は柔らかだったが、譲る気はないと伝わる確かな意志があった。
前に並んでいた中年の男が、玄曜の方へ顔を向けた。
「お兄さんも、噂を聞いて来たのかい?」