五妃伝 ~玉座に咲く愛~
「そして――李紫煙。」

再び玄曜が名を呼ぶと、紫煙が顔を上げた。

「おまえが、今回の妃だ。」

「えっ?」

紫煙は思わず声を漏らした。選ばれたことを、まだ理解しきれていない顔だった。

「えって……」

玄曜はその反応に、ふっと笑みを浮かべる。

「紫煙、朕の妃になりたいのだろう?」

「は、はい……!」

紫煙は慌てて膝をつき、ぺこりと頭を下げる。

(もっと……こう、劇的なものだと……)

ずっと憧れてきた“皇帝の妃に選ばれる瞬間”が、こんな形で訪れるとは想像していなかった。

まるで、残り物のような気がして、胸の奥がざわついた。

「紫煙。」

「はい。」

名を呼ばれ、顔を上げると、玄曜が柔らかく微笑んでいた。

「朕に、惚れているのだろう?」
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