その色に触れたくて…
【第13章】君に託す、未来の色。
【柱:思い出の公園・朝焼け】
【ト書き】
少し肌寒い早朝の風が、公園を優しく通り抜ける。
ベンチにひとり、新菜は小さく丸くなって座っていた。
昨夜の電話。
成海の震えた声。
胸騒ぎがして、いてもたってもいられなかった。
【ト書き】
空が薄桃色に染まりはじめた頃。
成海がゆっくりと現れる。
その姿に、新菜はほっと息をついたが──
すぐに言葉を失う。
【ト書き】
彼の目は真っ赤で、声をかけられないほど
深く、深く沈んでいた。
【新菜(立ち上がり、駆け寄る)】
「成海くん……っ……」
【成海(小さく微笑む)】
「……待たせた」
【ト書き】
声はやさしい。でも、どこか空っぽだった。
新菜はたまらず成海の手を取る。
【新菜(泣きそうになりながら)】
「言わなくていいよ。……何があったか、もう……わかってるから」
【成海(目を伏せて)】
「……咲耶が、逝った」
【新菜(小さく震えながら)】
「っ……」
【ト書き】
涙が自然にあふれた。
新菜は、言葉の代わりに彼を抱きしめる。
【新菜(声を震わせて)】
「ねぇ……今は、泣いてもいいんだよ……?
泣きたい時くらい、ちゃんと泣いて……」
【ト書き】
抱きしめ返す腕はなかったけど、
それでも、成海の肩はまた静かに震えはじめた。
──
【柱:公園のベンチ】
【ト書き】
しばらくして、ふたりは肩を並べて座った。
成海の膝の上には、一通の手紙。
【新菜(そっと)】
「……それ、咲耶さんの?」
【成海(頷いて、封筒を差し出す)】
「……新菜に、渡してほしいって。
咲耶のご両親から、託された」
【新菜(驚いて)】
「……え?」
【成海】
「最後まで……新菜のこと、気にしてたんだよ。
“あの子は、すごく優しいから、自分を責めるかもしれない”って……」
【新菜(封筒を受け取り、そっと開く)】
⸻
【咲耶(手紙ナレーション)】
『新菜ちゃんへ』
『きっと、突然のことで驚いたよね。
でも、最後にどうしても伝えたい言葉があって、この手紙を残しました』
『私はね、成海くんの“今”が大好きだった。
でも、同時に、あなたと一緒にいる時の彼の顔も、すごく素敵だったの』
『だからね、私がいなくなったあと、
成海くんを、よろしくね』
『私はあなたに嫉妬なんてしてなかったよ。
むしろ、あなたみたいな子が彼のそばにいるって、すごく心強かった』
『どうか、あなたの笑顔で、彼を救ってあげてください』
『そして……あなたが彼を好きなように、
彼もあなたを、ずっと、特別に思ってたから』
『もう、自分の気持ちに、嘘つかなくていいよ』
『成海くんの未来を、あなたの色で染めてあげてください』
『私のいない世界が、ふたりにとって、
少しでもあたたかいものでありますように。』
──咲耶より
⸻
【ト書き】
読み終えた新菜の頬に、涙がつたう。
でもその涙は、どこかやわらかくて、あたたかかった。
【新菜(ポツリと)】
「……すごい人だね。咲耶さんって」
【成海(静かに頷いて)】
「……あぁ。
最後まで……俺たちのこと、考えてくれてた」
【ト書き】
ふたりは見上げる。
朝焼けの空が、やさしい色に染まっていた。
【成海(ポツリと)】
「……もう少しだけ、時間がほしい」
【新菜(微笑んで)】
「うん。待ってる。
でも、ちゃんとそばにいるよ」
【ト書き】
その言葉に、成海はゆっくりと彼女の手を握る。
【成海】
「……ありがとう。新菜」
【ト書き】
その握った手が、
ようやく、未来に繋がった瞬間だった。
【柱:芸術大学・アトリエ棟の屋上/数日後の午後】
【ト書き】
やわらかな風が、心地よく吹いていた。
キャンバスが立ち並ぶ静かなアトリエ棟の屋上に、
新菜と成海の姿が並んでいた。
【ト書き】
新菜は、膝にスケッチブックを広げてペンを走らせている。
隣に腰掛けた成海は、何かを考え込むように空を見上げていた。
【新菜(ちらりと横目で見て)】
「……ぼーっとしてる。描かないの?」
【成海(目を細めて笑う)】
「お前が描いてる顔、見てるほうが面白い」
【新菜(ちょっと頬を赤らめて)】
「……何それ、意味わかんない」
【ト書き】
ふとした風が吹いて、新菜の前髪をさらう。
成海は無言で手を伸ばし、彼女の髪をそっと耳にかけた。
【新菜(驚いて)】
「……っ、な、なに……?」
【成海(少し目を伏せて)】
「……咲耶がさ、最期に“好き”って言ってくれたんだ」
【ト書き】
新菜の手が止まる。ペン先が紙の上で小さく揺れた。
【成海(ぽつりと)】
「俺も……ちゃんと返してあげられたらよかった」
【新菜(小さく微笑んで)】
「でも……咲耶さん、分かってたと思うよ。
成海くんの優しさも、迷いも、全部」
【成海(ふっと笑って)】
「……そうだな」
【ト書き】
ふたりの間に、静かな時間が流れる。
やがて成海がスケッチブックを取り出し、ページを開いた。
【成海】
「久しぶりに、描いてみる」
【新菜(顔をほころばせて)】
「……うん!」
【ト書き】
キャンバスに並ぶ線が少しずつ重なっていく。
向き合いながら、それでも今は、
焦らず、ゆっくりと歩く。
【成海(ふと)】
「……新菜」
【新菜(手を止めて)】
「なに?」
【成海(目を細めて、少しだけいたずらっぽく)】
「泣いた顔、見せたの……お前が初めてだった」
【新菜(顔を真っ赤にして)】
「は、はぁ!? そ、それ今言うこと!?」
【成海(くすっと笑って)】
「……ありがとな」
【ト書き】
夕陽がふたりを包む。
咲耶が遺してくれた温もりのように、優しく──
──そして、その空の下。
ふたりの“これから”が、
またひとつ、重なりはじめていた。
【ト書き】
少し肌寒い早朝の風が、公園を優しく通り抜ける。
ベンチにひとり、新菜は小さく丸くなって座っていた。
昨夜の電話。
成海の震えた声。
胸騒ぎがして、いてもたってもいられなかった。
【ト書き】
空が薄桃色に染まりはじめた頃。
成海がゆっくりと現れる。
その姿に、新菜はほっと息をついたが──
すぐに言葉を失う。
【ト書き】
彼の目は真っ赤で、声をかけられないほど
深く、深く沈んでいた。
【新菜(立ち上がり、駆け寄る)】
「成海くん……っ……」
【成海(小さく微笑む)】
「……待たせた」
【ト書き】
声はやさしい。でも、どこか空っぽだった。
新菜はたまらず成海の手を取る。
【新菜(泣きそうになりながら)】
「言わなくていいよ。……何があったか、もう……わかってるから」
【成海(目を伏せて)】
「……咲耶が、逝った」
【新菜(小さく震えながら)】
「っ……」
【ト書き】
涙が自然にあふれた。
新菜は、言葉の代わりに彼を抱きしめる。
【新菜(声を震わせて)】
「ねぇ……今は、泣いてもいいんだよ……?
泣きたい時くらい、ちゃんと泣いて……」
【ト書き】
抱きしめ返す腕はなかったけど、
それでも、成海の肩はまた静かに震えはじめた。
──
【柱:公園のベンチ】
【ト書き】
しばらくして、ふたりは肩を並べて座った。
成海の膝の上には、一通の手紙。
【新菜(そっと)】
「……それ、咲耶さんの?」
【成海(頷いて、封筒を差し出す)】
「……新菜に、渡してほしいって。
咲耶のご両親から、託された」
【新菜(驚いて)】
「……え?」
【成海】
「最後まで……新菜のこと、気にしてたんだよ。
“あの子は、すごく優しいから、自分を責めるかもしれない”って……」
【新菜(封筒を受け取り、そっと開く)】
⸻
【咲耶(手紙ナレーション)】
『新菜ちゃんへ』
『きっと、突然のことで驚いたよね。
でも、最後にどうしても伝えたい言葉があって、この手紙を残しました』
『私はね、成海くんの“今”が大好きだった。
でも、同時に、あなたと一緒にいる時の彼の顔も、すごく素敵だったの』
『だからね、私がいなくなったあと、
成海くんを、よろしくね』
『私はあなたに嫉妬なんてしてなかったよ。
むしろ、あなたみたいな子が彼のそばにいるって、すごく心強かった』
『どうか、あなたの笑顔で、彼を救ってあげてください』
『そして……あなたが彼を好きなように、
彼もあなたを、ずっと、特別に思ってたから』
『もう、自分の気持ちに、嘘つかなくていいよ』
『成海くんの未来を、あなたの色で染めてあげてください』
『私のいない世界が、ふたりにとって、
少しでもあたたかいものでありますように。』
──咲耶より
⸻
【ト書き】
読み終えた新菜の頬に、涙がつたう。
でもその涙は、どこかやわらかくて、あたたかかった。
【新菜(ポツリと)】
「……すごい人だね。咲耶さんって」
【成海(静かに頷いて)】
「……あぁ。
最後まで……俺たちのこと、考えてくれてた」
【ト書き】
ふたりは見上げる。
朝焼けの空が、やさしい色に染まっていた。
【成海(ポツリと)】
「……もう少しだけ、時間がほしい」
【新菜(微笑んで)】
「うん。待ってる。
でも、ちゃんとそばにいるよ」
【ト書き】
その言葉に、成海はゆっくりと彼女の手を握る。
【成海】
「……ありがとう。新菜」
【ト書き】
その握った手が、
ようやく、未来に繋がった瞬間だった。
【柱:芸術大学・アトリエ棟の屋上/数日後の午後】
【ト書き】
やわらかな風が、心地よく吹いていた。
キャンバスが立ち並ぶ静かなアトリエ棟の屋上に、
新菜と成海の姿が並んでいた。
【ト書き】
新菜は、膝にスケッチブックを広げてペンを走らせている。
隣に腰掛けた成海は、何かを考え込むように空を見上げていた。
【新菜(ちらりと横目で見て)】
「……ぼーっとしてる。描かないの?」
【成海(目を細めて笑う)】
「お前が描いてる顔、見てるほうが面白い」
【新菜(ちょっと頬を赤らめて)】
「……何それ、意味わかんない」
【ト書き】
ふとした風が吹いて、新菜の前髪をさらう。
成海は無言で手を伸ばし、彼女の髪をそっと耳にかけた。
【新菜(驚いて)】
「……っ、な、なに……?」
【成海(少し目を伏せて)】
「……咲耶がさ、最期に“好き”って言ってくれたんだ」
【ト書き】
新菜の手が止まる。ペン先が紙の上で小さく揺れた。
【成海(ぽつりと)】
「俺も……ちゃんと返してあげられたらよかった」
【新菜(小さく微笑んで)】
「でも……咲耶さん、分かってたと思うよ。
成海くんの優しさも、迷いも、全部」
【成海(ふっと笑って)】
「……そうだな」
【ト書き】
ふたりの間に、静かな時間が流れる。
やがて成海がスケッチブックを取り出し、ページを開いた。
【成海】
「久しぶりに、描いてみる」
【新菜(顔をほころばせて)】
「……うん!」
【ト書き】
キャンバスに並ぶ線が少しずつ重なっていく。
向き合いながら、それでも今は、
焦らず、ゆっくりと歩く。
【成海(ふと)】
「……新菜」
【新菜(手を止めて)】
「なに?」
【成海(目を細めて、少しだけいたずらっぽく)】
「泣いた顔、見せたの……お前が初めてだった」
【新菜(顔を真っ赤にして)】
「は、はぁ!? そ、それ今言うこと!?」
【成海(くすっと笑って)】
「……ありがとな」
【ト書き】
夕陽がふたりを包む。
咲耶が遺してくれた温もりのように、優しく──
──そして、その空の下。
ふたりの“これから”が、
またひとつ、重なりはじめていた。