この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜【書籍化】
翌朝。
九時ちょうどにインターフォンが鳴り、凜香は用意しておいた荷物を手に玄関を開けた。
「おはようございます、朝比奈さん」
すると礼央は、少し驚いたように目を見開く。
「あの、どうかしましたか?」
「ああ、いや。いつもと雰囲気が違うから、一瞬誰かと思ってしまって」
え?と凜香は首をかしげる。
自分の服装を見下ろしてようやく気づいた。
「やっぱり私には似合いませんよね、こういう服」
クローゼットに掛けられていた洋服の中から一番シンプルなものを選んだのだが、クリーム色のパフスリーブのブラウスと、ひざ丈の淡いピンクのフレアスカートは、着てみると予想以上にラブリーな雰囲気だった。
(なんだかもう、どうやってもふんわりふわふわって感じ)
パフスリーブは気恥ずかしいし、スカートは少し動くだけでふわっと広がり、ひざも見えてしまう。
いつもオフィススーツばかり着ている凜香にとっては、未知の世界だった。
しょんぼり肩を落とすと、礼央が慌てて取りつくろう。
「いや、大丈夫だ」
「大丈夫……」
そのニュアンスもどうなのだろう?
「ああ、そうではなくて。別に構わない」
「別に、構わない……」
「いや、だから。ああ、もう! 早く署に行こう。こういうのは矢島の担当だ」
スタスタと歩き始めた礼央に、凜香も慌てて玄関を出た。
駐車場に停めてあった車に乗り込むと、凜香は持っていた紙袋の中から蓋つきのタンブラーを取り出し、ドリンクホルダーに置いた。
「朝比奈さん、よかったらコーヒーどうぞ」
「え? これ?」
「はい。うちで淹れてきたんです。あとサンドイッチも。はい、どうぞ」
「……ありがとう」
小さくカットしたサンドイッチを、信号待ちの間に口にする礼央を、凜香は微笑みながら見つめる。
「うまかった。ありがとう」
「いいえ。矢島さんの分も作ってきたんです。あとでお渡ししますね」
「そうか。あいつ、しっぽ振って飛びつくだろうな」
「しっぽって、そんな。ふふっ、子犬みたい」
「そんなかわいいもんじゃないがな」
「ふふふ! でも想像つきます」
楽しく話している間も、礼央が何度もバックミラーやサイドミラーを確認しているのがわかり、凜香は気を引き締めた。
(どんな人物なんだろう、黒岩副社長の仲間って。本当に私のことを監視しているのかしら)
相手が誰なのかわからないままでは、警戒しようがない。
どこかで見られているのかもしれないと思うと、身がすくむ思いがした。
「……どうかしたか?」
運転しながら礼央が心配そうに聞いてくる。
「いえ、なにも」
「夜はちゃんと眠れたか?」
「えっと、はい」
「その口ぶりでは、なかなか寝つけなかったか」
言い当てられて凜香は口ごもる。
夕べは早めにベッドに入ったのだが頭が冴えてしまい、少し眠ってもすぐに目が覚め、細切れにしか眠れなかった。
「すまない。できる限り事件を早期解決させてみせるから」
「そんな、こちらこそ。うちの会社のせいで朝比奈さんと矢島さんにも大変なご迷惑をおかけして、申し訳なく思っています。私にできることはなんでもやらせてください」
「ああ、助かる。聞きたいことが山ほどあるから。協力してほしい」
「はい、承知しました」
怖がってばかりいてはいけないと、凜香はギュッと拳を握りしめて己の気持ちを奮い立たせた。
九時ちょうどにインターフォンが鳴り、凜香は用意しておいた荷物を手に玄関を開けた。
「おはようございます、朝比奈さん」
すると礼央は、少し驚いたように目を見開く。
「あの、どうかしましたか?」
「ああ、いや。いつもと雰囲気が違うから、一瞬誰かと思ってしまって」
え?と凜香は首をかしげる。
自分の服装を見下ろしてようやく気づいた。
「やっぱり私には似合いませんよね、こういう服」
クローゼットに掛けられていた洋服の中から一番シンプルなものを選んだのだが、クリーム色のパフスリーブのブラウスと、ひざ丈の淡いピンクのフレアスカートは、着てみると予想以上にラブリーな雰囲気だった。
(なんだかもう、どうやってもふんわりふわふわって感じ)
パフスリーブは気恥ずかしいし、スカートは少し動くだけでふわっと広がり、ひざも見えてしまう。
いつもオフィススーツばかり着ている凜香にとっては、未知の世界だった。
しょんぼり肩を落とすと、礼央が慌てて取りつくろう。
「いや、大丈夫だ」
「大丈夫……」
そのニュアンスもどうなのだろう?
「ああ、そうではなくて。別に構わない」
「別に、構わない……」
「いや、だから。ああ、もう! 早く署に行こう。こういうのは矢島の担当だ」
スタスタと歩き始めた礼央に、凜香も慌てて玄関を出た。
駐車場に停めてあった車に乗り込むと、凜香は持っていた紙袋の中から蓋つきのタンブラーを取り出し、ドリンクホルダーに置いた。
「朝比奈さん、よかったらコーヒーどうぞ」
「え? これ?」
「はい。うちで淹れてきたんです。あとサンドイッチも。はい、どうぞ」
「……ありがとう」
小さくカットしたサンドイッチを、信号待ちの間に口にする礼央を、凜香は微笑みながら見つめる。
「うまかった。ありがとう」
「いいえ。矢島さんの分も作ってきたんです。あとでお渡ししますね」
「そうか。あいつ、しっぽ振って飛びつくだろうな」
「しっぽって、そんな。ふふっ、子犬みたい」
「そんなかわいいもんじゃないがな」
「ふふふ! でも想像つきます」
楽しく話している間も、礼央が何度もバックミラーやサイドミラーを確認しているのがわかり、凜香は気を引き締めた。
(どんな人物なんだろう、黒岩副社長の仲間って。本当に私のことを監視しているのかしら)
相手が誰なのかわからないままでは、警戒しようがない。
どこかで見られているのかもしれないと思うと、身がすくむ思いがした。
「……どうかしたか?」
運転しながら礼央が心配そうに聞いてくる。
「いえ、なにも」
「夜はちゃんと眠れたか?」
「えっと、はい」
「その口ぶりでは、なかなか寝つけなかったか」
言い当てられて凜香は口ごもる。
夕べは早めにベッドに入ったのだが頭が冴えてしまい、少し眠ってもすぐに目が覚め、細切れにしか眠れなかった。
「すまない。できる限り事件を早期解決させてみせるから」
「そんな、こちらこそ。うちの会社のせいで朝比奈さんと矢島さんにも大変なご迷惑をおかけして、申し訳なく思っています。私にできることはなんでもやらせてください」
「ああ、助かる。聞きたいことが山ほどあるから。協力してほしい」
「はい、承知しました」
怖がってばかりいてはいけないと、凜香はギュッと拳を握りしめて己の気持ちを奮い立たせた。