あの噂に隠された運命に涙する

第三章 遠い過去のハーモニー

現実世界に戻り、朝の診察や検査などを終えた後。
病室で朝ごはん。
あたしの大好物のオムライスがあるけれど。
当然、あたしは食べられない。
幽霊の身を恨むのはこんな時。
『スムージーラリア』の世界では、普通に食べられたからなおさらだ。
じっーと物欲しそうにしていると、高見橋くんはぽつりとつぶやいた。

「……神楽木さんは何も聞かないんだな」
「えっ……?」

あたしは思わず、きょとんする。

「俺のこと、スペアのこと……」

振り返ると、高見橋くんは少し言いづらそうな顔をしていた。

高見橋くんのこと。
スペアのこと。
聞く機会はたくさんあったはずなのに、どうして聞かなかったんだろう。

頭の中で必死に整理していると、一つ確実なことを思いつく。

「だって、高見橋くんが、あたしのスペアになってくれたから」

そう答えた途端、どくん、と胸が音を立てる。
ふと気づいた。
きっと、『この胸の高鳴り』が答えだ。

「慌てて聞かなくても、今すぐ高見橋くんのことが分からなくても、高見橋くんはあたしと一緒にいてくれる」
「神楽木さん……」

あたしの名前を呼ぶ高見橋くんの姿に、じんわりと涙が浮かぶ。

「せっかく、高見橋くんが隣にいてくれるのなら、このまま、ゆっくりがいい」
「ありがとう」

高見橋くんの笑顔は、まるで羽が生えているみたいに自由で優しい。
高見橋くんはいつだって、わたしの世界を彩り溢れるものだと教えてくれる。
出会ってからずっと。
いつか、その先のあなたを知れたらいいな。
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