すべての花へそして君へ①



「……あおい」


 その薄い唇から、甘い声で名を呼ばれる。


 ただただやさしく倒されて、少しだけ広がったわたしの髪。
 そこへ指を差し入れて、愛おしげに梳く骨張った大きな手。
 流れるようにひと房掬って、そっとキスが落とされる。


 王子がどうとかって、熱っぽい瞳で見下ろしている彼はなんかごちゃごちゃ悩んでいらしたけど。……そういう仕草が様になっている辺り、素質は十分あると思うんですよね。

 けれど残念なことに、彼は王子でも何でもなくて、ドSで悪魔の、とっても意地悪なご主人様ですのでね。


「はあ。……はあ。はあ……」


 開始早々序盤から、既に息も絶え絶え。
 酸欠状態のわたしの唇を塞いでくるぐらいには、今までの隠し事がバレて吹っ切れたのか、相変わらずでいらっしゃいます。


「ん……っ。はあ」


 今までは警察を呼ばれる危険性があったけど、どうやらこれからはうっかり命を落とさないよう、気をつけないといけないみたいです。……救急って、何番だったかな。



 恐らく死にません。
 多分死にません。
 でも『絶対』とは――――……



「……ごめん。止まんない――」


 ちょっと、言い切れそうにありません。




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