すべての花へそして君へ①
あとでちゃんと謝っといてね
「確かこの部屋だと思うんだけど……」
同じような扉ばっかで自信ないんだよね。ハハハと軽く笑っているヒナタくんに対し、わたしはというと一歩、また一歩とそこへ近づく度に、そこはかとない畏れのようなものが体を支配していた。一歩歩けば、手が。もう一歩歩けば奥歯が。さらに歩けば足が震え、気を抜いてしまえば歩みを止めてしまうほど。
「……。着きましたけど、あおいさん?」
そして今は、頭ではわかっていても体が心がついてこなくて。完全にヒナタくんの後ろに隠れている。
「……あのさ、掴むんなら」
「ご、ごめん。服……伸びると思う」
「……いや、いいけど。貰い物だし」
不安になると服を掴む癖は、やっぱりまだしばらく治りそうにない。でも、掴んだからといってそれは少し落ち着くだけのものであり、完全になくなるかは別問題。ちゃんと、わかってる。
(でも、ヒナタくんに頼り切りもダメだ)
彼は、今までたくさんのものをわたしにくれたんだ。
ここから先は、わたしがちゃんと自分一人で歩いて行かないと。その道を、もう十分彼は作ってくれたんだから。
「ま、待って……ね。もう、ちょっとだけ……」
思う存分発揮してしまっているヘタレを、ここで全部出しきっていこう。そうしよ――
「もうちょっとってどれくらい? 何秒?」
「秒!?」
「ちょっとってそれくらいでしょ? じゃあ10秒だけ待ってあげるね」
「10秒!?!? ちょちょちょちょ、ヒナタく――」
「きゅ~う、は~ち、な~な」
とか思ってたら、出し切る前になんか時間制限が設けられてしまった。たった10秒とか。わたしにとってそれ、もう時限爆弾と同じような威力持ってるからねっ?
「……いじわる」
「ろ~く、さ~ん、ぜ~ろ」
「――!?!?」
ちょっ!? おかしい!! カウントがおかしいから!!!!
その意地悪が彼のやさしさだとわかっていても、言わずにはいられなかった言葉を言ったがために、そんな抗議も言えぬまま。
小部屋にしては似付かない大きな扉に触れ、一度こちらを少し振り返ったヒナタくんは、にやりと意地の悪い笑みを浮かべて。ゆっくりとその扉を開けてしまった。