すべての花へそして君へ①
――バタンッ。
「……え。……ひっ、ヒナタ、くん……?」
今さ? シントがさ? みんなに合図してた風だったんだけど?
「どうやら部屋間違えたみたい。こっちかな?」
「いや、ある意味正解だけど……。扉閉めちゃったからどうなってるかわかんないけど、きっと向こうの人たちは今頃作戦失敗に終わってる状況だよ……??」
だって今、何が起こったのかわからないくらい、扉の向こう側がしーん……って静まりかえってるんだもん。さっきのクラッカー音が嘘みたいだよ? なんか、無言の圧を感じるよ……??
「こっちじゃなかったらあそこかな?」
「一人暢気ですね~」
ヒナタくんは、いつの間にかわたしの手を取ってくれていて、そしてさっさと歩き出していた。でも肩が小さく震えてるから、多分すごい笑ってる。
「いやあ、ちょっと傑作だよね。あーどうしよ。あとが怖いねー」
「わたしは無実を突き通すぞ」
「じゃあオレはあんたを盾にとろう」
「それでいいんかい……」
でも、なんだかさっきまで怖かったのが、緊張してたのが嘘のようだ。二人して、今頃どうなってるんだろうねと笑い合っていたら、やっとこさ本当の目的地まで到着したよう。
「今度は正解?」
「正解正解。オレが間違うことなんてないって」
「さっき思いっきり間違えたがな」
「それは緊張をほぐしてあげようとしてて~」
「ほんまかいな」
「ほんまほんま」
でも、それがたとえ嘘でも本当でも。……もう、全然怖くなんかない。
(だからまあ、彼が怒られるようなことがあれば、ちょっとだけ庇ってあげようかな)
先程とは違い、余裕がある表情だったのだろうか。ヒナタくんはわたしを見て、すっと扉から下がり小さく笑っている。
もしかしたら、本当にわざと間違えてくれたのかも知れない。皆からしたら大迷惑極まり無いことも、そうだとちょっぴり嬉しい自分もいたりして。
……やっぱり、一緒に謝ってあげよう。遅刻に関しては、知らないけど。
「……ありがと。ヒナタくん」
「ん? ……なんか言った?」
「もう大丈夫になった、って言ったよ」
余裕の表情で笑い返すと、一瞬驚いたように目を丸くしたものの、彼は一際柔らかく笑い返してくれた。まるで「大丈夫だよ」と。そう言ってくれているようで。
そんな彼のやさしさをしっかりと受け止めて。今度は自分の手で、目の前の大きな扉を開いた。