すべての花へそして君へ①

頭蓋骨はそんなに柔じゃない


 そこもやはり、小部屋と言うには大きすぎる部屋だった。もはや、どれが小部屋でどれが大部屋かなんて、よくわからないけど。
 でも、そこに。確かに。部屋の隅に……。執事の彼が教えてくれた通り、小っちゃく縮こまってる人と、それにもう呆れている人。


「……おとう、さん。……お、かあ……さん……」


 若い頃の面影が残ったままの。


「……あ、おい」

「……っ、あおい」


 二人の姿が、あった。


「……あおい」


 緊張からでもなく。畏れからでもなく。ただ、そこにいるという事実に、まるで足が石のように固まってしまったかのように。まるで、部屋の絨毯に縫い付けられてしまったかのように。動けなくなってしまったわたしの両肩に、そっと温かい大きな手が添えられた。


「呼んであげて」


 小さく囁くように。耳元へと届いた彼の声に答えるように、「お父さん」と。「お母さん」と。そう言おうとしたのに、今の一瞬で喉がカラカラに渇いて、掠れた声しか出なかった。


「もう一回」


 容赦のない彼の言葉に、反射的にもう一度彼らを呼んだ。今度はきちんと出たけど、笑ってしまうくらい震えていた。
 でも向こうから聞こえた声も、おかしくて笑っちゃうくらい……ふるえてた。


「じゃあ……最後」


 ぽんと軽く叩いてくれた手は、足だけじゃなくて、全身の強張りを解いてくれた。少しだけ入った手の力からは、包まれるような温かさと安堵をもらった。そして最後に。


「行って……――こいっ」


 言葉から、押された背中から、あの人たちに飛び込んでいく勇気をもらった。


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