すべての花へそして君へ①
「ぶはっ」
人が必死に悩んでるっていうのにっ。お隣さん噴き出したんですけど。
「ひっ、ヒナタくん? どうしたの……?」
「ははっ、ええ? いや、それはこっちのセリフなんだけど」
「え?」
片手で口元を押さえながら。彼は繋いでいる方の手を、そっと持ち上げた。
「どーしたの?」
「……え?」
「言いたいこと。あるなら言って?」
ゆっくり口元の手を下ろしながら。首をほんの少し傾けて、やさしく笑いかけてくる。
……言いたいこと。言いたいこと、言いたいこと……。
「あなたは誰ですか」
「……九条 日向。16。高2。特技は軽い手品と趣味は盗撮ですが何か」
真顔で言ったら真顔で返された。
そこは突っ込んで欲しかったのに。真っ直ぐ返してこないでくださいよ。
「寝る前にも言ったじゃん。なに。どうしたのさ」
「いや、ヒナタくんの皮を被った誰かかと思って……」
「それをあんたは真面目に言ってるんですか」
「結構本気です」
今度こそ真面目に返す。真っ直ぐ瞳を見つめて。見つめて……。み、見つめ――
「ハイ。すみません……」
真顔のはずなのに。彼も、真顔でわたしを見返してたはずなのに……。
『そ れ を あ ん た は 本 気 で 言 っ て ん の か』
背後に禍々しいオーラが見えた。怖かった……。
「はあ。……まあ、完全に間違いってわけじゃないけど」
「え。……まさかヒナタくん、悪い部分が抜け落ち――」
「オレの悪い部分って何。ほら、言ってみなよ」
「んむぅー……!!!! (口が滑ったー……!!!!)」
ブチュッと。大きな片手で、両方のほっぺを潰されてしまった。……イイデスネ。お手々が大きいと、そんなこともできるンデスネ。
「言いたいこと。言わないとここで襲うよ」
「!? んむぅー!!!!」
言いますっ! 言いますからっ、それは勘弁してください!
「オレは別にいいけど。慌ててるとこ見るの、楽しいし」
いやマズいから! 公衆の面前で嫌がる女の子にそんなことしてたら、あなたそれこそ警察行ですよ!? 別の理由で警察行を、今度は阻止しないといけないんですかわたしは!