すべての花へそして君へ①
オカマの次はシスコンですか
「でもあれだな。お兄さんって呼ばれるのも、悪くねえな」
「え」
少し経ってから、お兄さんはポロッとそんなことを口にした。おかげで涙がほぼ引っ込んだ。
「そう思ったらますますいいな。……葵、言ってみて」
「え」
「あ、でも『お兄ちゃん』の方が俺的にはいいな。……よし。言ってみて」
「え」
「あーでもやっぱり『つばにい』だよなー。『兄貴』はなしな? あいつが時々言うから」
「え」
おかげで涙は完全に引っ込んだ▼
なんだか知らないけれど、完全に開き直った……って言い方は違うのかも知れないけど、さっきまでの彼はどこかへ行って、今はそんなことをぶつぶつ言い出していた。しかも、『さあ、来い』と。準備万端な期待の眼差しで、わたしに訴えかけてきてるし。
「つ、つばにい……?」
しかも、折角期待に応えて言ってあげたのに、目の前の人、ものすごく物足りなさそうな顔をしていらっしゃるんですけど。
「もっとこう……お兄ちゃん感を醸し出して!」
「え。つ、ツバサくん。どうしたんだ。そっちの気が……」
「ちょっと遊んだだけじゃねえかよ。そんな白い目で見てくんなって」
それはそれで面白かったけど、ちょっと安心した。
彼の拘束は、いつしかやさしくて温かいものに変わっていたんだけれど……。どうしてか今は、彼から離れない方がいいだろうなと思って、そのまま彼の話を聞いてあげることにした。