すべての花へそして君へ①
そして……そっと。指にかけていたひと房を、やさしく耳へと掛けてくれて。
「……返事は、いらないよ」
「つばさくん……」
そのまま頬へと手を伸ばし、彼は噛み締めるように、何度も何度も指の腹で撫で始めた。
「返事なんかわかってる。聞くのは嫌なんだ。……ズルくて、ごめんな」
「……ううん。謝らないで?」
何度も……何度も。彼はやさしく頬を撫でてくる。
まるで、これが最後だからと言いたげに。
「だから、代わりに言わせて欲しいんだ。……葵、俺はお前が……」
――好きだった。
強く吐き出された言葉と同じように強く。掻き抱くように強く。強く強く、体を抱き締められる。わたしは何をするでもなく、強く抱き締められた腕に抗うこともせず。
「うん。ありがとう、ツバサくん」
ただツバサくんに、身を委ねて。ただ、そう言った。そう言った。……それ以外、言えなかった。
「お前しかいないって、そう思えるくらい、好きだった」
「うん」
「俺の隣で笑ってて欲しかった。涙だって、拭ってやりたかった」
「……っ、うん」
「お前のことを、……俺が。幸せにしてやりたかった」
「っ……。う……、んっ」
溢れてくる『愛してる』が過去なんだと。まるで自分に言い聞かせているような彼に、涙が込み上げてくる。泣く資格なんて、わたしには無いのに。……なんでか涙が止まらなくって。
「……泣いてるのか?」
「だ……。だって……っ」
止まらなくて。止まらなくて。そんなわたしに困ったように笑いながら、彼はわたしに「バカ」と零して。切ない声に。震えた声に。また涙が溢れてきて……。
「バカだな、ほんと。……そういうところも俺は」
――好きだったよ。
彼の言葉に。行動に。本当にこれが最後だと伝わってきて。
そのあとすぐに降りてきた頭への柔らかい感触には、気付かない振りをしてあげた。